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その時は友人の子を頼まれて迎えに来たと説明されたが、子供の大きさを見て、まさかな…と、顔を見せて欲しいと頼んだ。
子供の顔を見たら自分に似てる部分がある気がした。
だけど愛子は俺を睨み、二度と関わり合いたくない、二度と顔を見せないで、大っ嫌いと言い残して帰ってしまった。
当然と言えば当然、愛子の言う通り、結婚生活中、浮気をしていただけでなく、愛子を見もせず妻なのに妻じゃなかった。
愛子から見たら俺は詐欺師と変わらない。
だけどどうしても子供の顔が見たかったし、友人の子ならそう何度もお迎えには行かないだろうと思ったし、他の人の子だとしても相手がちゃんといて幸せならいいけど、そうじゃないなら何か罪滅ぼしに手伝える事はないだろうかと考えた。
こんな時、理屈では分かる、近寄ってはいけない、顔を出してはいけない、それだけの事をしたのだと、分かるが心は割り切れないし体は勝手に動いてしまう。
その日もキッズルームの階段下で愛子が出て来るのを待っていた。
「ストーカーだよ?やってる事。」
「……それは嫌だな?警察…呼んで良いよ?」
沈黙が流れた。
愛子の言う事も正論だから本当に警察を呼ばれても構わないし覚悟はしていた。
「…あ〜!だ!」
愛子の腕の中で小さな元気のいい声が聞こえる。
「起きちゃった…。ごめんね?」
子供に話しかけた愛子が赤ん坊の頬に触れた瞬間、帽子がずれて、赤ん坊が顔を横に向けた。
「………愛子。」
目は赤ん坊の顔をしっかりと捉えて茫然とする俺を見て、愛子が帽子を慌てて直す。
「……俺の赤ん坊の頃の写真に…瓜二つだ。」
愛子は唇を噛み、無言で横を向いてしまった。
「頼む…。教えてくれ!本当の事。こんなにそっくりで他人の訳がない。愛子が嫌なら、この子をダシにして近付こうとか思わない。せめて、この子にも謝るチャンスをくれ!お願いします!!」
その場で土下座をした。
必死だったから土下座をしたという意識はなく、ただ真実を教えて欲しくて、もしそうなら愛子にどう詫びればいいんだろうと、頭の中が真っ白になっていた。
「ちょ……ちょっと止めてよ!こんな道路で!」
「教えてくれるまで動かない!!」
「早く立って…。土下座するなら、別のとこにして。ちゃんと話すから…誠一さんにも安藤さんがいるでしょうし…。付いて来て…。」
(もういない…いないよ。)
言いたいが言えない言葉を飲み込み、着いて来てと言う愛子に従った。
愛子の後を少し離れて歩き、電車に乗り、次の駅で降りた。
そこからも、歩く愛子の後をずっと付いて行った。
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