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「えっ!?ひと目見ただけでお兄ちゃんが自分の子供だって分かったの?」
「分かるよ。お父さんの小さい時にそっくりなんだから。」
「ええーそれでもさぁ。もう離婚してるしーお母さんにだって付き合ってる人いるかもしれないしー?子供いても再婚してるかもしれないじゃない?」
「そういう人がいたら、ちゃんと挨拶をして遠くから見守るつもりでいたよ。」
「ふぅん、結局さ、お父さんはそのまま誰もいない事をいい事に、ズルズルお母さんに付き纏って許してもらったんでしょ。私さーこの間、友達と喧嘩したのね?」
急に話が変わって驚きつつも、う、うん、と返事をする。
「どっちが悪いとかじゃなくてどっちも悪かったと思う。それでもね、謝るって難しいの。逆に許すのも難しいの。私、お父さんの浮気、のはなし?聞いた時、本当に信じられなかったし許せなかった。平気な顔で帰って来るわけでしょ?今まで別の人に好きだとか言っておいて、笑顔でただいまーって…。」
「……まぁ、うん。」
申し訳ないとしか言いようがない気持ちで、なんとも言葉が出なかった。
愛子ならごめんなさい、悪かったと言えるのだが、娘に言われるともう…どうしたらいいのか分からないので、ただ沈黙した。
「お母さんが可哀想であんなにお父さんを大事にしてるお母さんを裏切ってたお父さんが許せなかった。汚いって思った。だけど…病気の話聞いた時、時間がないって言われたら私が責めたからかなって。」
グスッと泣き出した愛実の肩に手を回し引き寄せる。
「愛実は悪くない。言っただろ?お父さんは嬉しいんだ。お母さんがいてくれる。優一と愛実がいる。毎日、こうやって話し相手をしてくれる。退屈しないよ?愛実もお父さんを許せないなら許さなくていい。ただ…最後までここにいる事、お父さんを看取ってくれる事、それだけでいい。最後がお父さん嫌いでも構わない。愛実の幸せだけを願っているよ?お父さんみたいな男を選ぶなよ?」
「うん……お母さんに許してもらうの大変だった?」
半泣きで腕の中で愛実が聞いて来る。
「大変は当たり前だけど、多分、お母さんはまだ許してはいないんじゃないかなぁ。お母さんは優しいから、大事な物をちゃんと大事にする人だからお父さんの事、放っておけなかったんだと思う。二度はないって釘を刺されたしね。」
「それは当たり前でしょ!私なら怒り狂って殴ってるよ!」
「それは怖いな。」
愛実から手を離して答えると、涙を拭きながら愛実が俺を見つめる。
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