11月、動かない中で

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紺のブレザーにグレーのスカート、赤と青の細い線が入っているチェックのプリーツススカートで、ネクタイもキチンと結ばれて、紺のソックスに足元にローファーまで履いていた。 「どう?可愛いでしょ?この制服着たくて頑張ってるんだぁ。」 ポージングをして言い、靴を見せた。 「これね、お母さんが買ってくれたの。早いけど何処の学校でも履けるからって。ワイシャツも買ってくれたの。あ!でも制服は借り物だから安心してね。」 くるりと回ってスカートがふわっと揺れた。 「買ってても…構わないよ。それより…スカートが短い…って。」 涙が止まらなくなる。 「流行りだってば!似合うでしょ?」 「うん………うんうん、似合う、似合うよ。どっちの制服も似合って、る。」 大きく頷き、精一杯声を張り言った。 愛子は我慢しながら俺と愛実を撮影し続けて、優一も目は潤んでいたが大変だったと笑いながら話してくれた。 愛実の知り合いの先輩から清麗学園の制服は借りられたが、東王高校に知り合いがいなかったので、愛子の前店舗のパートの娘さんが東王だったと思い出し、連絡をして少し家が遠いので朝早く優一に頼んで、家を訪ねて借りて来てもらったらしい。 愛子と愛実は本当に借りれるのかと、ソワソワしながら待っていて様子がおかしかったと理解出来た。 「お母さんは良いですよって、日曜だしと電話では言って下さったけど、娘さんが嫌だと言ったら駄目だから心配してたの。知らない人に制服貸すのは嫌でしょう?優一が帰るまでは期待させてがっかりするといけないから内緒にしてたの。」 愛子が微笑みながらスマホを手に慎重に歩いて愛実を撮影していた。 最後は家族で東王の制服を着た愛実を真ん中に記念撮影。 愛実と二人で並んでも撮影した。 杖は仕方ないが、自力で立ち、愛実と二人、優一と三人、愛子も入って、笑顔で沢山撮影した。 「父さん、座ろう。」 手を貸してもらい、三人掛けのいつもの定位置に座ると、もう一度、愛実を見た。 「東王高校、受かると良いな。お父さん、信じてるよ。」 「うん!頑張る!制服着たらなんかやる気出た!」 みんなで笑うと、愛子が返しに行くから直ぐに着替える様に言い、愛実は自分の部屋に戻った。
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