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「クリーニングはいいのか?」
「うん、明日もいるから間に合わないし、事情は説明してあるから、肌に直接触れるワイシャツは愛実に買った物で、借りたのは制服だけだから。一応、簡単ではあるけど綺麗にしてお返しすると話はしてあるの。クリーニング代として、菓子折りも準備してあるしね。」
汚れ取りのブラシセットを手に愛子は愛実の部屋に向かった。
誠一のスーツも随分、愛子に手入れをしてもらった。
袖口、裾、衿、の辺りは汚れ易い、がスーツを毎日クリーニングには出せない。
愛子の簡易ではあるが、スチームアイロン、エチケットブラシ、濡れタオル、汚れを浮かす水溶性洗剤など、総務にいた時に掃除のプロに教えてもらったそれのお陰でスーツはいつも綺麗だったのを思い出した。
暫くして、優一に制服と紙袋も渡して、お願いねと愛子は見送る。
戻ると横に座り、額に手を当てられる。
「疲れたでしょ?熱は……大丈夫ですね。移動しましょう。」
「うん…愛子。」
「はい?どっこいしょ!」
「ありがとう。制服姿、見れた。」
一歩、踏み出して言う。
「だから言ったじゃないですか?ストーカーだから見れると思うよって。」
笑顔だけど目が潤んでいる愛子を見つめて雫を足に落とし、ウンウンと頷いた。
幸せな写真が増えて、スマホに愛実のファッションショーのムービーが保存された。
暇を見つけては見る様になっていた。
その頃、もう一枚、手紙を書いた。
林彩香宛。
何処に住んでいるか知らないから、これは見つけた人へ任せようと考えた。見つけた人と言っても確実にそれは愛子、俺の妻になるわけだが、妻の判断が正しいと今の俺は誰よりも妻を信頼していた。
ーー林彩香 様
お見舞いにわざわざ来て頂きありがとうございました。
勇気が必要だった事と思います。
幸せそうなあなたを見て、ご主人に会えて私にとっては嬉しい事でした。
考えれば…私達はとても似ていたと思います。
二人でいて居心地が良いのはお互いが近い場所にあったから。
お互いに楽で楽しい時間を過ごし、身勝手に動いた。
私達は似過ぎていた。
狡さも甘さも自分を大事にするその傲慢さも…お互いに今、自分には似ていない不器用な相手と結婚し、自分の浅はかさを反省している。
合ってるかな?
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