エピソード、おまけ 忙しい愛子

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「えっ!時計?」 「あ、これ、シーズンズのいい奴!うわ!凄い、可愛い!」 「優一にはスポーツしても大丈夫な頑丈な物、愛実には人気な物、メッセージカード付き。誕生日と入学祝い的な物だって言われた。」 「結構…高いけど……母さん、いいの?反対しなかったの?」 時計を手に取り、優一は嵌めながら訊き返した。 「最後のプレゼントと言われたら反対出来ません。それにネットで注文した後で事後報告だもの。今はネットで何でも買えてある意味便利でいいけどある意味迷惑。」 「支払いはお母さん?」 愛実に聞かれて苦笑する。 「お父さんのカード引き落とし。」 「間に合ったんだ。」 「家に戻って直ぐ注文してたからね。返せないし、受け取って。これがあるから、愛実にはお母さんの時計をあげる。お父さんの時計はお母さんに譲ってね。」 笑顔で言うと、メッセージカードを手に愛実が頷いた。 ーー高校生になったらこの時計で素晴らしい時間を刻み、過ごして下さい。 「優一も愛実もお父さんので欲しい物があったら持っていっていいけど、ひと言言ってからにしてね。今週中には片付けるから、早目にお願いね。」 父の荷物をサクサク片付ける母を優一は心配な顔で見つめていた。 クローゼットの荷物を片付け終えて、書斎に手を付ける。 仕事の物は分からないので、重要っぽい物は段ボールに入れて、後日、会社の方に電話をする事にした。 捨てる事になるだろうけど、最終確認の為だ。 机の引き出しから愛子とペアの時計が出て来た。 最初の結婚の後、一週間も経たずに誠一にプレゼントされた物だ。 自分とお揃いだからとプレゼントされたけど、これが自分だけがお揃いだった訳ではない事は、安藤彩香が家に来た日に気が付いた。 誠一を支えるその腕に愛子と色違いの同じ時計がされていたからだ。 その日、愛子は時計を外し、二度と着ける事はなかった。 自分で安い時計を買い、それを使用していた。 「この時計の本当のペアは私じゃないのよね。」 後日、林彩香へ連絡を取り、会って時計を形見として渡そうとしたが、彼女はやはり受け取ってはくれなかった。 葬儀にも夫婦で来てくれて、彼女もかなり憔悴していて、隣にいる大事な人を改めて大事にしようと思えたのだと思う。 夫婦の住まいに元恋人の想い出の物を入れないと決めたのだろうと、愛子もスッとそれを引き、持ち帰った。 (ほら、誠一さん。最後はなんだかんだで妻でしょ?) 誠一の遺影の前に時計を置いてそう報告した。
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