約束

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約束

 あの人は忘れたかしら。  列樹と出会ったのは、皐月(さつき)の花咲く頃、ちょうど今頃と同じ時節だった。  屋根まである皐月(さつき)の花の垣根が今を盛りに咲いていた。  やんちゃな兄通久といたずらっ子の友達の度を越した遊びに、名子はいつも怪我をさせられて、痛くて泣いていた。遊んでくれているのは嬉しかったが、追いまわしたり、水をかけたりされ、膝を擦りむいたり、溺れかけたりするのは決して名子も楽しいことではなかった。  列樹は兄たちの友達の一人で、兄たちが乱暴になりすぎると、諫めたり、止めてくれたりして、いつも名子を助けてくれた。  夏が終わり、宇治の別邸から名子が家に戻らねばならないと分かった時、名子は列樹と離れることを悲しんだ。 「大人になったら、めおとになろう。そうしたら、二度と離れない」  すがりついて、駄々をこねて離れぬ名子に、列樹はそう言ってくれた。
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