透明な君へ

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私が手を握ると、男の子は嬉しそうに笑って 次の瞬間、私をふわっと抱き上げて可愛らしい木馬に乗せた。 うわ、この子。細身なのに力あるんだ。 私は太っては無いけど身長あるし。軽くはないはずなのに…って! 『ちょっと!あんたも乗るの?』 さも当然の様に、私と同じ木馬にピッタリと乗り込んできた。 『そりゃ乗るよ。』 『木馬ならいっぱいあるじゃない!なんでわざわざ…』 『あ。そろそろ動くよ〜。』 軽快なワルツが流れて、木馬達は優雅に上下しながら回りだした。 うわぁ、この感じ。 懐かしい。 『どう?楽しい?』 『ん。』 なんで、初対面の変な男の子と 幼児向けのアトラクションに乗せられて 一昨日、大事な弟を亡くしたのに 私は… 『俺の1番大事な人が、メリーゴーランド大好きだったんだよね。』 男の子の声が、密着した背中から直に伝わってきた。 『ようやく共働きの両親が休みを合わせて 念願の夢の国に来れたのに 俺が迷子になっちゃって、その人はメリーゴーランドに乗れなくなっちゃったんだ。』 後ろは振り向けない。 こんな涙でぐちゃぐちゃの顔なんか 絶対見せたくない。 『俺、知ってたんだ。普段は暴君とか呼ばれてたけど、ほんとはプリンセスとかかわいいものが大好きな普通の女の子だって。』 なんで知ってんのよ… 『その子は俺を探して出してくれて、すごく怒ったんだ。 メリーゴーランドに乗れなくなった事じゃなくて 私の前からもう二度と居なくなるな!ってさ。』 『姉さん、あのとき僕を迎えに来てくれて ありがとう。』
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