きつねつき

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 ぼくの母さんは「きつねつき」だとみんな言う。孝太も、三郎も、みち子も、太郎も、みんな言う。なぜならぼくの母さんが出す声は 「おぉーおー」 「けえっけっー」  何を言ってるのかよくわからない不思議な音でしかなくてそれはきつねの鳴き声そっくりだって誰かが言いだした。ぼくは違うと言ってるのに誰も聞いてくれないんだ。  母さんはお耳がね、聞こえないんだよ産まれつきなんだ、それだからふつうにお話しはできない。ぼくは母さんの言葉、手話っていう手と指を使って話す言葉、それでもって母さんとお話しするんだけど、それを見たみんなはまた、ほれほれきつねがやる手あそびだってはやし立てる。母さんが悲しそうな顔をするからぼくは、大きな声で言ってやるんだ違う!って。でも母さんはうつむきながらぼくの手を引いて帰ろうとするからぼくの悲しみはどんどんと広がるばかり。
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