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母さんがあんまり泣くからぼくは困ってしまって、そうしたらまた悲しみの湖がまわりにどんどんと広がる。ぼくはまた、ひとりその中に沈んでゆく。母さんの悲しい顔なんて見たくないよ。いっそのこと目が見えなければいいのに。そうすればもう、なんにも感じなくて済むんだのに。
そんなことを考えていたらこんどは、目をあけていられなくなってまぶたが閉じたまま糊ではりつけでもしたように開かなくなった。ああ、何も見えない。母さんのわなわなと震える手がぼくの顔をなでまわす、でも見えないし聞こえないからなんともない。
母さんのふかい悲しみをのせて流れる時間のなかでぼくは、ぼくでなくなりいつのまにか、どことも知れないところでぽっかりと、ただよう。
そこではすべての苦しみや悲しみが消えぼくはようやく、安心してもう一度眠りについた。あたたかくて優しい匂いがする、なつかしい母さんの内側で。ぷかりぷかりと夢を見ながらここで永遠に、眠り続けたらどんなにいいかしら。
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