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しかしぼくはついに産まれた。それはある月のきれいな晩だった。月明りをたよりに母さんのお腹の中から外にはいだす。寒くて寒くてやりきれない、すると縮こまって身ぶるいしているぼく、それからいっしょに出てきたきょうだいたちを、母さんがあたたかい舌でペロペロと優しくなめてくれた。
そうか、ぼくたちはやっと、ほんとうのきつねになれたんだな。これからはもう誰からもばかにされることなく母さんときょうだいといっしょに、うつくしい月光のなか浮かびあがるこの森で、安心して暮らすことができるんだ。
ぼくはもううれしくなってそこいら辺をやみくもに走りまわった。母さんはそんなぼくを、やっぱりうれしそうに目を細めて見ている。
「ケェーン」
「コォーン」
きつねの言葉はにんげんの言葉よりもずっと簡単に気持ちを表すことができるから、ぼくたちは気楽に話したり笑ったりしながら森をかけまわる。そう、きつねも楽しければ笑うんだよ。にんげんだったころの思い出はどんどんうすくなりそのうちさっぱり、無くなってしまった。
ここにはぼくたちをいじめる仲間はいないから誰かに見られているとか笑われているんじゃないか、そういうことをまるで考えなくて済むからしあわせだ。
それからのぼくたちは長いこと森の中で、ふんわりと満ち足りた暮らしを送ったんだよ。
優しくほほえむ母さんに、いつも見守られながら。
(了)
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