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第二章 FIRE*WORKS
白く反射する床がとてもきれいだった。
「ようこそ、FIRE*WORKSへ」
そう言って笑った野木くんにうっかり見惚れてしまいそうになる。だってあんまりにもかわいいから。
その野木くんの肩口から、もうひとりひょこっと顔を出した人がいた。
「にょ。だれだれー? って、あ、きのーの子じゃん。来たんだー」
にこおっと、子供のような屈託のない笑顔を浮かべたのは、昨日の車椅子の人だ。肩口で揺れる黒いボブヘアの内側だけ、少し色が違う。青灰色だろうか。慌ててペコッと頭を下げると、今度は左手から声がかけられた。
「なんだ。美鈴とゼンの知り合い?」
男の人だ。お店に入ってすぐ左手にある、白い波打った形のカウンターに立っていた。背が高くって細い。顎の下にだけちょろっとした髭をはやしている。
「ししし、しりあいって、いうかあの、わす、わすれも……」
ああ、だめ。口が回らない。頭も回っていないのに口も回らないと何を言っているのか分からなくなる。わたし本当に、こういうときは駄目さに拍車がかかる。
あわあわしているわたしを遮って、野木くんが大きく手を振りながら声を上げる。
「がっこの子ー。おじさん通してー」
「ハイハイ」
おじさん――店主さんだろうか?――は苦笑しながら、どうぞとわたしを中へと促した。
カツン。ローファーのかかとが小さく鳴る。
不思議な空間だった。壁は真っ白で、どこかひんやりとした雰囲気がある。入ってすぐの場所から左側は床も真っ白だ。野木くんたちのいる場所もふくめて右側は、ヘリボーンの床になっている。深い木の色が暖かさを感じさせていた。
左側の壁には、絵のようなものがいくつも飾られている。右側は、少し古めかしい壁かけ時計とランプ。右側と左側が全く別の空間のようで、だけれど不思議と喧嘩しているようには見えない。奥には階段があって、右側すぐ手前は大きい机がある。
どこか夢見心地のふわふわした気持ちのまま、野木くんたちのもとへとたどり着く。
促されるまま椅子に座る。椅子とおそろいの円形のテーブルは、オールドウッドの天板にアイアンの脚がとてもおしゃれだ。車椅子の女性は、そのまま自分の車椅子に座っている。大きなタイヤで、フレームがところどころオレンジだ。
「あ、え……とあの」
何からどう言えばいいのかわからないまま、とりあえずリュックからマニキュアを取り出した。こと、とテーブルの真ん中に置く。
「こ、これ、あの、忘れ……」
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