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どうも野木くんは、人にあまり興味がないらしい。
「あんた寝過ぎで溶けないかって、まりもが心配そうだからさぁ」
わたし!?
いきなり話をふられてあわあわしてしまった。野木くんを見ていたことをかおちゃんに気付かれていたことも、それを野木くんに伝えられてしまったことも、ダブルで恥ずかしすぎる。
かぁっと顔に熱がのぼる。ダメなんだよ。すぐこうなるんだから。
「か、かおちゃぁん……」
「だってなんか見てるからさぁ」
言わないでお願い。
野木くんは相変わらずぽけっとしたまま、ゆっくりと今度は反対側へと首を傾げる。
「まりも……」
「片瀬まりもちゃーん。この子だよ」
かおちゃんがくるっとわたしの後ろに回って、両肩を抱いてくる。
真理乃、です。というか、それは、あの、昨日……。
言うわけにもいかず、何とか引きつった笑みを浮かべてみるくらいしか出来ない。笑みになってたかどうかは自信ないけれど。
さすがに、気づいた、だろうか。
不安と期待を交じり合わせながら野木くんを見たけれど、野木くんは変わらないそぶりのまま、ふーん、とだけ、言った。
――すんっ、と、心のどこかに重しが乗っかる気配がする。
興味なし。そう言われた気がする。昨日のあれは、やっぱりきっと、幻だ。
野木くんはふわふわする髪を手で押さえつけながら、首を回して教室の時計をみた。
「……HR終わった?」
「割と前にねー」
かおちゃんが答えている。
なんだか、額縁の向こうの絵みたいに思えてくる。平凡な学校の、平凡な絵。でも、彩度がとても低くて、青が強い。
「あたしこれから部活ー。まりもは?」
「あ、え、か、かえる……」
昨日、綾乃にご飯を作らせてしまったから、今日はわたしがやらなきゃ。
「そかそか。んじゃ気を付けてね。また明日ね! 野木もばいばーい」
かおちゃんがぱたぱたと鞄を持って教室を出ていく。
……き、きま、ずい……。
教室にまだ人はまばらにいるとはいえ、どうにも居心地が悪い。早く帰ろう。どうせ、昨日のあれは、野木くんの中ではなかったことになっているんだろうから。
あったことになっていたとしても、どうしたらいいのかなんて分からなかったんだし、ちょうどよかっただけじゃない。
机の中のノートと教科書をリュックに急いで詰め込んだ時、かたんと音がした。
とっさに顔を上げる。
野木くんが鞄を手に歩き出したところだった。ちょっとまるまった背中が、ゆらゆら揺れながら遠ざかっていく。
……帰る、のかな。それとも。
考えたあたりで、ふるふると首を振った。関係ないことは、詮索しない。
そう、思ったのに。
首を軽く振った反動で、視界にそれが映ってしまった。
野木くんの机の上に残された、一本のマニキュア。
「……!?」
思わず息を呑む。
や、まってまってまって。さすがにまって!? これはあの、さすがにアレではないでしょうか!? っていうか、持ってたの? 昨日のは幻じゃなかったの? 野木くん本人なの? だとしたらなんで持ってきていたの。無防備にここに置いていていいものじゃなくないですか!?
ほぼパニックになりながら、とっさにわたしは立ち上がっていた。野木くんの机に駆け寄り、反射的にそれを手の中にしまい込む。
し、心臓が痛い。
誰にも気づかれてはいないらしい。そっと教室を見回しても、こっちを見ている人はいない。存在感なくてよかった。
野木くんはもう、見えなくなっていた。
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