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そうまで言われてしまうと、突き返すのも悪い気がしてしまう。
諦めてはいと頷くと、野木くんは満足そうに微笑む。
「あ、普段ネイルとかあんましない系? リムーバーある?」
「しないです。リム……?」
「リムーバー、取るやつ。んじゃ、サンプルにこれあげるよ。あとは自力でご購入ください」
野木くんは自分のバッグからポーチを取り出して、その中から小さな袋に入ったリムーバーとかいうやつをくれた。
「野木くんは、あの、よくするんです、か? その、ネイル? あの、昨日……」
「あー。土日はやることもあるけど、昨日は特別。ちょっとある予定があってね。数本でよかったんだけど、見てたらかわいくって爆買いしちゃって」
あはは、と困ったように笑うけれど、でも、困ってなさそうだった。
ポーチから、一本別のマニキュアをちらりと見せて、またしまう。
「かわいい、ですね。そのポーチも」
「だしょ? オーロラみたいできれいなんだよね」
「ふふー、それあたしチョーイス!」
美鈴さんが得意げに鼻を膨らませた。
ポーチはころんとした丸みがあって、薄いピンクに見えたのだけれど、エナメル素材なのかテラテラとしていて光に反射していろんな色を浮かべている。
「野木くんは、かわいいのが好きなんですね」
わたしの言葉に、野木くんは一瞬目を伏せて、次の瞬間にはいたずら好きな顔でわたしを覗き込んでいた。
「――へん?」
低く、ささやく。
何か意図がありそうだ、とは思った。思ったけれど、それを汲み取れるほどわたしは人の機微に聡くなくて。結局その変化に戸惑いながら、
「なにがですか……?」
と率直に聞くしかなかった。
一瞬の間。次の瞬間には、ぶはっ、と、野木くんと美鈴さんが同時に吹き出して突っ伏していた。
「えっ、なんですか!?」
「いや、ごめん、だって」
野木くんが笑いながら顔を上げる。
「何がも何も。俺がかわいいの好きなんだよ?」
「……? はい。すごく似合ってます」
「マジか。素でその反応か」
だって、とても似合う。かおちゃんもかわいいし、綾乃もかわいいけど、野木くんはふたりとは違うかわいさがある。どことなく、美しい、という表現も入るようなそれだ。
「ちょっとれいちゃん。笑いすぎ。息して息」
「……むっ、り。こきゅう……こんなん」
ヒィヒィと笑い声の合間から、美鈴さんが何とか声を絞り出す。
「っはー、まりもちゃん。さいこう。しゅきぴ」
まりもって言った……? ぴ……?
どう反応を返せばいいのか分からず固まるわたしに、美鈴さんはにこっと笑いかけてから車いすを動かした。
「まだ時間ある?」
「え。あ、はい。……少しだけなら」
スマホに目を落とす。遅くなるとは言ったけれど、出来れば早めに帰りたい。あんまり、綾乃に迷惑はかけられない。
「じゃ、ついてきて。お店ちょっとだけ案内する」
「あ……はい!」
慌てて立ち上がった。実は入って来た時から気になっていた。特に左側、白い空間。あそこに、絵が飾られていたから。
美鈴さんはすいっと車いすを動かして左側のほうへ入っていく。わたしの後ろからは、野木くんも来てくれていた。
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