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「あ…」
公園入口から見える道から来る黄色の花がらのあの小さな傘は、姉のお気に入りのもの。
「ダイキ!!」
俺を呼び、キョロキョロと公園内を見渡している。
俺は、教えてくれたのに傘を持っていかなかったことと、帰りが遅くなったことで怒られるのを覚悟してから、電話ボックスの戸を開けた。
「姉ちゃん…」
俺の声に気づき、姉は心配そうな様子から、ホッとしたような表情に変わる。
「ダイキ、帰ろ。」
姉はそう言って、お気に入りの傘を差したまま、キャラクターが描いてある傘を俺に差し出す。
その時、いきなりの突風が吹いた。
「あっ…!!」
姉の傘は姉の手を離れて飛んでいき、近くの高い木の上へ。
小さな子供にそれを取るすべはない。
俺は泣き出す姉に、持ってきてくれた自分の子供用の小さなキャラクター傘を差し出し、二人で差して泣きながら家に帰った。
空が晴れてすぐ、俺は父親と公園に行ったが、もう処分されたのか他へ飛んでいってしまったのか、子供用の黄色の雨傘はもう無かった。
帰ってきた俺と父親に、姉はそれについては何も言わず、
「おかえりなさい。」
と、少し無理に笑ったように言ったのだった。
それ以来姉は、お気に入りの傘を買わず、ビニールの傘を持つようになった。
俺のせいかもしれない。
あの時、俺が傘を持って出掛けていれば…
あの時、気を利かせた姉が迎えに来るようなことがなければ…
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