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跋文
いつもと同じ朝の挨拶をして、祖父の横を通り、家を出る。
――君の絵は、君の見た景色を伝えるだけでなく、君自身を語ってくれるんだよ。
――間にあるのが君だから意味がある
――君はそんなに素晴らしいのに
今なら、北原さんに言われたことも、素直に受け取れる。
――未知の怖さがあってさ。夢を見ているような。この世に無い色に包まれる感じ
和美には絵を通して、僕の見たものが正しく伝わっていた。
和美と自分の間に見えていたものが、単なる友情ではなく、確かな信頼関係と愛情だとわかった。
――私は君の絵に吸い込まれる夢を見たことがあるよ。恐ろしいのに、胸が高鳴った
――君の絵を見て、君に会いたいと思った。
英介さんが僕に見せたがらなかった顔というのは、絵ではなく、僕個人について語らせようとすると、もの凄く照れるというだけの話だった。
みんなして不安を煽るようなことを言うと思っていたが、単純に面白がってひやかしていたのだ。英介さんがその度怖い顔をしていたのは、からかい過ぎていたせいだった。
厄介なものもたくさん見るけど、僕は自分の右目を、そこから見える景色をやっと、好きになれた。
誰かの役に立てることもあるようだし、人と違うというのも、そう悪くない。
きっかけは最悪でも、結果もそうとは限らない。
いつまでも英介さんに守られるだけでなく、僕も彼を支えられるよう、強くなろう。
だから、眼帯はもう要らない。
僕は、未知の世界にひらかれた新しい生き方へと、一歩を踏み出した。
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