序文

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序文

1bbd2710-703d-4d83-9cc3-f6b2fecc5a68  僕の眼球は、顔の中心に付いた鼻を挟んで、大体左右対称に二つ填まっている。  大抵の人は当り前だと思っているのだろうけど、決してそうではない。  片目の人はいるし、あるいは、二つ以上ある人もいるかも知れない。  瞳は左右全く違う色で、おかしな事にそれぞれ別の景色が見える。  大抵の人間は左右で違う景色を見ているものだけれど、まるで重ならないほど食い違う二つの景色を見ている僕はやはり、異常なのだろう。  他人に知られなければ、その生まれつきの体質も、思考も、異常と判断される事はない。  右の瞳は嘘の様に赤く、左の瞳は闇の様に黒い。  見られることはもう平気だ。  何を言われても何とも思わない。  ただ、僕にしか見えない世界は、他人との生活にきっと必要ない。  だから僕は右目を隠す。  両親の代わりに面倒を見てくれるのは、書道家の祖父だ。  僕は最近、家の中でも右目を隠すようになった。  僕はただ、恐いだけだ。  自分が恐ろしいだけだ。  だけど本当は、宝物を守っている様な気分でいる。  特別でありたいと願うのに、異質であることを厭う。  この劣等感を拭い去る、絶対的な自信が欲しい。  望むだけで何もできずにいる僕ほど、愚かしい者もない。
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