九 過去

1/1
前へ
/39ページ
次へ

九 過去

 小さい頃から、僕をちゃんと見てくれる人は少なかった。 「啓、母さん何も見えないわ」  母さんは、僕が見えたことを話すと、とても困った顔をしていた。 「右目は確かに畸型と言えますが、視力も精神状態も問題ありません」  父さんは医者に問題ないと言われると、それきり僕には関心を示さなくなった。  自分が人と違うらしいと自覚してからは、僕は無口で無表情な子どもになった。 「お化けはあっち行けよ」  同級生たちは僕を嘘つきだと決めつけたり、赤い目を悪く言って石を投げたりして、それに飽きると、いつしか僕をいないものとした。 「放っといて向こうで遊ぼうぜ」  だから僕はいつも独りだった。  見えるものをひたすら絵に描いた。  紙に描くと捨てられるので、地面に描いた。 「啓。上手だな。絵を描きたければ、私の家で描くといい」  初めて絵をほめてくれたのはお祖父さまで、僕の赤い目もちゃんと見てくれた。  高梨先生を紹介してくれたのもお祖父さまだ。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

49人が本棚に入れています
本棚に追加