夢の中でさようなら

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夢の中でさようなら

気がつくと風景が変わっていた───── おかあさんの夢の中なのかな? そこは昔と変わらない家の風景だった。 「あ〜なつかしい」 長い間家に帰れなかったから。 久しぶりの家がとても恋しい。生きて戻れなかったな。 家に入って部屋を見渡すとおとうとが眠っていた。 5歳のおとうと。 たまにしか遊んであげられなかった。 あたしが入院してしまって、おかあさんは あたしに付きっきりのことが多かったから ずいぶん さみしい想いさせてしまったよね。 「こうちゃん、ごめんね」 頭をなでながら、おとうとの顔を忘れないように心にやきつける。 「う、う〜ん。おネエちゃん?」 目をこすりながらおとうとが目を覚ます。 「うん。そうだよ。おネエちゃんだよ、起こしちゃってごめんね。これからおネエちゃん、そばにいてあげられないから、おかあさんを守ってあげるんだよ。こうちゃん、わかった?」 「うん!わかった!」 おとうとは元気に返事をする。 「ごめんね。起こしちゃって、ほら、もうすこし寝ようね」 あたしはおとうとを寝かせて頭をなでる。 少しすると安心したみたい。 スースー寝息をたてて眠ってる。かわいい。 最後に、このかわいい寝顔がみれてよかった。 それから他の部屋も見渡した。 おとうさんは、出張だったのかな? まだ帰ってきてなかったみたい。 おかあさんの姿は、今のところ どこにもいない。 最後にあたしの部屋。 久しぶりのあたしの部屋のドア。 ドアをあけるとベッドに1人顔を伏せておかあさんが眠っていた。 おかあさんの目は腫れている。 さっきまで泣いてたんだね。ごめんね。 悲しませちゃったね。 「おかあさん、泣かないで。あたし、頑張れなかったみたい。ごめんなさい」 そう 話しかけると、おかあさんは目を覚ました。 「陽子?ああ〜よかった。夢だったのね」 おかあさんはあたしをぎゅっと抱きしめてくれた。 おかあさんは、現実が信じられなくて夢を夢だったと思ってるみたい…… 「おかあさん、違うよ。ここは、おかあさんの夢の中だよ。ごめんね、あたし、頑張れなかったみたい」 おかあさんの前で笑顔でいないといけないのに 涙がとまらない。 おかあさんも一緒にいっぱい泣いてる。 「ううん。陽子はいっぱい頑張ったよ。えらかったね!」 おかあさんは、泣きながら笑ってる。 だから、すっごく……涙がとまらなくなりそうだけど……あたしも一緒に泣きながら笑うんだ! 「おかあさん、あたしはもう痛くないし苦しくもないから、これからはもう あたしの事で悲しまないでこうちゃんと一緒にいてあげてね!約束だよ」 「うん。わかった、約束ね」 おかあさんと指切りげんまん! 最後に思う存分おかあさんにギュッとしてもらった。 「おかあさん、生んでくれてありがとう。あたし幸せだったよ」 おかあさんに1番言いたかった言葉。 よかった。言えて。 気持ちが暖かくなったと思ったら 霧のようにふっと、気がつくと、おかあさんの夢の中から出ていたみたい。 周りを見渡すと夜のお空の上で、飛んでいるみたい。 飛んでると思ったら今度は、急降下して ホテルの部屋にたどり着いた。 ここは…… あっ、おとうさん! おとうさんは、お酒をいっぱい飲んでしまったみたい。 「おとうさん、そんなに飲んだら身体こわすよ」 ポンポンとおとうさんの肩を叩く。 かわいい娘がきたよって感じで、おとうさんとは楽しくさよならしたいから。 そう思ったからなのかな?不思議と夜だったのに、風景が朝の家に変わった。 「ほら!おとうさん」 「う、うん?」 「おきて!遅刻するよ」 元気だったときのあたしの朝の日常。 起きないおとうさんを起こすのは、いつもあたしの担当。なんか、懐かしいなぁ。 おとうさんが目を覚ます。 「よ、陽子!」 びっくりして目を覚ます。 「あれ?朝?」 「そうだよ。起きて!もう、お酒いっぱい飲んで。身体こわしたらどうするの?もう、知らないからね!」 「ごめんなさい。陽子に嫌われたくないからもう飲まないよ」 「ほんとに?約束したからね。ずっと約束だからね」 「うん。約束!」 おとうさんと2人指切りげんまんをする。 「おとうさん、じゃあ あたし、時間だからそろそろいくね。体調には気をつけて、それと、あたし今まで 幸せだったよ! ありがとう」 「な、何?急に改まって」 「ううん。なんでもない。あたし今言いたいキブンだったから。いってきます」 「ああ。いってらっしゃい」 最後は笑顔でおとうさんにあいさつして さよならをする。 「おとうさん、おかあさん、こうちゃん ありがとう 。あたしの分まで幸せになってね」
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