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好きになってもいいですか?
私は、このクラスにいる竹島が気になっている。
もう……ずっと前から。
「前園さん? どうかしたの。さっきから、ボーとしてるけど」
心配そうに私の顔を覗きこむクラスメイト。
「あっ、ごめん。この問題の解き方だったよね。これは、」
視線の先、窓の外を死んだ魚のような目で眺めている竹島。彼には、恐い存在だと思われているに違いない。
昼休み。
いつものように、当然のように。八条院は、竹島と一緒にご飯を食べている。
私は、この時間が一番苦痛だった。我慢出来ない。
ママが早起きして、せっかく作ってくれたお弁当。彼らが気になって、いつも味わう余裕がない。
放課後。
私は、勉強をするふりをして教室に一人残っていた。静かな教室。射し込む夕陽。
急に………。
……急……に……。
なんでかな。
悲しくなってきて、涙がこぼれた。
ガラガラガラ。
「!?」
教室に誰かが入ってきた。私は、慌てて涙を拭くと教科書で顔を隠した。
「前園さん? 勉強してるんだ。すごいな、やっぱり」
竹島だ。
顔に熱が集中するのを感じた。
この情けない泣き顔を見られたかな。
「何しに来たの?」
「忘れ物。体操着をさ」
「そう……。勉強の邪魔だから、早く出て行って」
こんなこと言いたくないのに!
なんで、私はいつも………こうなんだろう。
「うん。邪魔して、ごめん」
行かないで!
行かないでよ……。
「泣いてるの?」
彼が、ドアの前で振り返る。
「泣いてない。早く出て行って!」
「えっ、でも。目が、真っ赤だし」
「目が乾燥したの。ただ、それだけ」
まだ、彼に見られてる。恥ずかしい……。
「明日からは、俺も勉強するから。前園さんが良ければさ、放課後、一緒に勉強しよう」
「…………じゃあ、離れて座って。気が散るから」
「分からないとこを教えてほしいんだよ。特に数学がワケわからなくてさ。分からないとこが、分からないんだ」
竹島がいなくなった教室。
明日からは、一緒に勉強が出来る。楽しみで楽しみで、その日は全然眠れなかった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
今日は、朝から雨が降っている。
憂鬱で。頭も痛い。
それでも私は、学校に行った。竹島に会いたくて。
今度の模試が終わったら、彼に告白しよう。もう待てない。いや……私は、待ち過ぎた。
学校に着いても、調子が悪かった。熱っぽい。風邪かもしれない。
竹島は………いた。
今日も窓の外を見ている。
ねぇーーー。
外には、何があるの?
アナタには、何が見えてるの?
フラフラする頭で、何とか授業を消化した。やっと、放課後になった。
はぁ……はぁ…ぁ……。
…………………。
……………。
はぁ、やっと静かになった。いつものように、竹島と一緒に勉強した。
でも熱のせいか、内容が全く頭に入らない。
「前園さん?」
はぁ……ぁ……。
ドサッッ。
…………………。
………………………………。
気がつくと私は、保健室のベッドの上にいた。保健の末松先生が携帯ゲームをやりながら、チラチラ私を見ている。甘いリンゴ飴の匂いがした。
「あっ、目を覚ましたのね。 気分は、どう?」
「は…い……。大丈夫です」
壁時計で時間を確認する。あれから一時間半たっている。寝たせいか、気分はだいぶ良かった。
「熱は、少し下がったみたいだけど。帰れそう?」
「はい。先生、ありがとうございました」
立ち上がると、まだ少し目眩がした。
部屋の隅っこで、居心地悪そうに薬棚を見ている彼の姿が可愛かった。
「倒れたアナタを彼が、ここまで運んだのよ。ふふ……若いって羨ましいな」
私は、慌てて保健室を後にした。
帰り道。
夜が、すぐそこまで来ている。
「大丈夫?」
「……うん」
「良かった。急に倒れたから、心配したよ」
「竹島…………」
「何?」
アナタが、好きです。
「もうすぐ、模試だね。頑張ろうね、お互い」
「うん。負けないからな!」
彼の背中が見えなくなると、堪らなく寂しくなった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
今日は、運命の日。
塾の統一模試。やっと、終わった。
俺は、今までで一番の手応えを感じていた。前園さんのおかげだ。文句を言いながらも俺のバカな頭に真摯に向き合ってくれた。
お礼の一つでもしないとな。何が良いかな。う~ん。女子が、喜ぶもの。う~ん。
「……一緒に帰らない?」
前園さんだ。最近、良く会うな。
「あぁ、うん。いいよ」
「模試、どうだった?」
「意外とできた。ありがとう、前園さん。テスト勉強手伝ってくれて。本当に助かったよ」
「えっ、あっ、うん。そう……。良かった。あのさ……。ちょっと、寄り道しない?」
俺は、前園さんと二人で小さな喫茶店に入った。客は、俺達以外に一人しかいない。ゆっくりくつろげそうだ。
「竹島って…さ……。今、好きな人とかいるの?」
「まだ好きかどうか分からない……。だけど、気になる女ならいる」
「八条院のこと?」
「………うん」
「私は、はっきり言えるよ。竹島のこと、好きだって」
「へ?」
冗談じゃないことは、本人の顔を見たら分かる。前園さんが、こんな俺に好意を持っていたなんて。
「私、諦めないから。絶対に八条院には負けない」
「……………」
「そんなに嫌?」
「ちがうよっ! そんなんじゃ……」
「フフ、冷めちゃうよ。紅茶」
「あっ……うん。うまいな、コレ」
「そうだね。本当に美味しい。良い香り……」
駅前で、前園さんと別れた。
今でも後悔している。あの時、前園さんの気持ちに真剣に向き合わなかったこと。そして、前園さんを家まで送り届けなかったことをーーーーー
「じゃあね。また、明日!」
「うん。また、明日」
前園さんを見たのは、この日が最後になった。
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