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悲恋
竹島と駅前で別れた私は、これ以上にないくらい興奮していた。舞い上がっている自分を抑えるのに必死だった。
家の前の通り。前方から痩せた男が歩いてくる。背が高く、黒い帽子を深くかぶっていた。
すれ違いざま、一瞬、男と目が合う。
「…………」
「…………………」
ただ、それだけ。
でもーーーー。
男から、強い殺意を感じた。体を突き刺すような激しい怒りと憎しみ。
一度も会ったことがないこの男に恨まれる覚えはない。
だからこそ、余計に不安になった。身の危険を感じた。私は、慌てて校長に電話をかけた。校長なら、何とかしてくれる。私達を束ねる長だから。
ザザザ…ザザ…ザ…ザ…。
聞いたことのない雑音が、スマホから聞こえた。
妨害…電波……?
急いで家に入ると、鍵を閉めた。しばらくドアスコープから外の様子を見る。
「………………………」
もう男の姿はなかった。
「お帰りなさい。模試は、どうだった?」
「ママ………。私、見られた。たぶん施設から逃げた私達を捕らえに来たんだと思う……。どうしよう……。どうしよう……ママ…………」
私は、泣きながらママに抱きついた。
ピンポーーン!
ピンポーーン!!
「とっ、とにかく、中に入りなさい!! 自分の部屋にいて。絶対に出てきちゃ、ダメよ」
私は急いで階段を上がり、自分の部屋に入った。鍵を閉め、ドアに耳をぴったりくっつけて外の音を聞いた。
「……………」
無音。
しばらくたっても何の音もしないから、私は鍵を開け、音をたてないように階段を降りた。リビングでは、ソファーにママが座っている。
「ママッ!」
足元が、ぬるぬる滑る。
「……………マ…マ…」
ママは、口と鼻から大量の血を流して死んでいた。ソファーは血の海で、右足は綺麗に切断されていた。
「ママだと? 笑わせるな。つまらない家族ごっこしやがって。血の繋がっていない、ただの化け物二体が一緒にいるだけだろうが。俺はな、お前達のような逃げ回る害虫を駆除しに来たんだよ」
赤い目の男。まだ変異はしていない。
どういうこと?
この男も私達の仲間じゃないの?
私は、思い切り右手を引っ掻いた。激しい痛み。この痛みで、覚醒できる。
一秒、一秒、狂暴に変化していく私の体。
「バカな奴だ。お前……最悪の選択をしたぞ」
「ギ………ギ………」
ねぇーーー
私ね、本当は八条院が羨ましくて、羨ましくて仕方なかったんだ。あんな風にアナタと普通に話したい、ふざけて笑いたいってずっと思ってた。
だから……。
短い間だったけど、一緒に勉強が出来て、話が出来て本当に嬉しかったよ。
さっきは、告白もできたし。
「化け物に産まれた己の悲運を恨め。お前達は、産まれてくるべきじゃなかった」
………。
ザシュッ……。
…………………………………………。
『大好きだよ』
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