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真実
退屈な授業。その退屈さを加速させたのは、いつもなら教師に質問攻めする前園さんがいないから。
一人いないだけで、お通夜のように静かな教室。俺たちのクラスを引っ張ってくれる、リーダー的存在。
誰に対しても平等で。特に女子には慕われていた。
………………。
前園さんがいなくなって、二ヶ月がたった。
「…………」
たぶん、日に日に憔悴していく俺のことを心配してくれたのだろう。八条院が、校長(ママ)に口止めされていた真実を俺だけに教えてくれた。
前園さんが、殺されたことをーーーー。
「大丈夫……? もう放課後だよ。帰らないの?」
「あぁ」
もうこの世界に、彼女はいない。俺に告白してくれた時の、あの……すごく照れた顔が……今も教室の窓ガラスに写っている。
「正義ってさぁ……私のこと大好きだよね?」
「あぁ」
「エッチしたい?」
「あぁ……」
「じゃあさ、今からしようか?」
「あぁ…………」
久しぶりに八条院の方を向いたら、恥ずかしそうに制服のシャツのボタンを外し、スカートまで脱ぎ始めていた。
「なっ! 何してんの!?」
「……………………バカ」
急に般若のような顔になり、俺の悪口を言いながら、教室を出ていこうとする。
「ママに言って、退学にしてもらうからッ! 正義の内申点、最低にしてやるから!! この、」
「夢羽……」
その後ろ姿に声をかけた。
「夢羽。お前は、死ぬなよ。絶対………」
扉を強引に足で開けた八条院が、振り返る。
「お前を失うのは、耐えられそうにないから……。だから、死なないでくれ。俺の為に……」
「…………………」
主を玄関前で迎える子犬のように、ハァハァと荒い息で、机を掻き分けながら走ってきた八条院。そんな彼女に、キスされた。
「………キス…しちゃった……」
「え……ななななんで?」
「やっぱり、正義ってバカだね~」
笑顔になった彼女に安堵した。彼女のプニッとした柔らかい唇の余韻が残る左頬を擦りながら、興奮が治まるまで、しばらくその場を動けなかった。
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