1.こんな私に食べ物を恵んでくれたのは?

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 遥香さんは若い男と出かけて行ったきり戻らず、1週間も家をあけていた。このとき既に、預かっていたわずかなお金もほとんどなくなっていて、私はひどくお腹が減っていた。だけど、悪いことはしたくなかった。  常にカースト上位にいる4年2組の永井さんは美人で優等生だったけれど、親の財布からお金を抜き取ったり、万引きをしたり、私みたいにカースト下位の子たちを陰でいじめるような人だった。  この100円玉を持ってスーパーに行けば、割引のおにぎりや菓子パンの1つぐらい買えたかもしれない。でも、常日頃から、永井さんのような人間にはなりたくないと思っていた私は、スーパーに行くという選択肢は捨てていた……。  土をかけた亡骸に手を合わせてから、私は駅の方へと向かった。土で汚れた100円玉を交番に届けると、「失くさないように」というお巡りさんの言葉とともに、ペットボトルのお茶と「拾得物預り証」を受け取った。  3ヶ月たっても落とし主があらわれなければ、この100円は私のものになるらしいが、私はそのときまで生きていられるのか――  空はまだ青かったが、時刻はもう18時近くになっていた。へとへとになりながらも、もらったお茶で喉を潤しながら、何とかアパートの203号室に帰り着くと、遥香さんはまだ帰っていなかった。けれども、その代わりに、玄関のノブのところに白いビニール袋が引っかかっていて、その中に、お茶とお水、それから、メロンパンとツナマヨのおにぎりが入っていた。  誰がくれたものなのか、想像がつかなかった。考えられるのは、1階に住んでいる大家さんぐらいだが、家賃を数ヶ月も滞納しているというのに、こんな親切なことをしてくれるだろうかと、疑問が残った……。  だったらいったい誰が?  こんな私に食べ物を恵んでくれる人なんて、どこの誰なの?  神様、……なの?  神様って……本当にいるの?  いるわけ、ないか。  本当に神様がいるのなら、私は幸せに暮らしているか、それか、生まれてくることはなかったはずだから……。  違うかな?  違わないのかな?  何だかわからないや……。  いくら考えてもわからず、食べるのが少し怖くなっていた。でも、だったら、この空腹をどうやってしのげばいいのか――  毒が入っていて、死ぬかもしれない。当然にそういう恐怖はあった。でも、もしも入っていなければ、私の命はこれでつなげるはずだった。  食べるのも恐怖。食べないのもまた恐怖。だったら――  一か八かの賭けみたいなものだった。  街の防災無線から流れてくる『トロイメライ』を聴きながら、私は無心にそれらを食べた。食物を腹に入れれば、空腹は満たされるけれど、虚しさが満たされることはなく、咀嚼したものを飲み込むたびに、涙がぽろぽろとあふれ出てきた。  
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