3 Y抹殺計画の正当性と概要(アビゲイルの日記より一部抜粋)

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3 Y抹殺計画の正当性と概要(アビゲイルの日記より一部抜粋)

◎Y染色体の有害性と必要性  Y染色体は絶えざる性淘汰の圧力により、ひたすら女性の獲得競争に邁進する一種の暴走機械(ランナウェイ・マシン)と化している。  Yの競争は果てしがない。女性の獲得でもっとも手っ取り早いのが、権力の座に着くことや金銭の貯蓄であることは論を俟たない。この過程はクジャクの羽が離陸不可能になるまで豪華になるのと同義。  クジャクであれば尾羽の巨大化は離陸不能という壁に阻まれ、そこで強制的に性淘汰のランナウェイは終わる。けれどもY染色体保持者たちの暴走は止まらない。  富や権力がどれだけあったところで彼らの生存になんらかの制限がかかることはない。むしろそれらが増えれば増えるほどよりいっそう、女性獲得の難易度が下がるのである!  この世にはびこる暴力や怒りのほぼすべてがY染色体保持者によって惹起せしめられている。その原因が性淘汰であるならば、世界には永遠に平和が訪れないどころか、ますますわれわれX染色体保持者は煮えたぎる怒りの渦へと引き込まれるであろう。  わたしはためらいなくここに宣言する。、と。 ◎Y染色体保持者殲滅計画(概要) 1、ゲノム編集ツールであるCRISPER CAS 9を入手  ダウドナ・シャルパンティエ両名のパテント管理を一手に引き受けている弁護士事務所経由でクリスパーを入手。 2、ショウジョウバエでの実験  ショウジョウバエのオスが生産する精子を分離し、クリスパーを軸としたゲノム編集カセットを組み込む。カセットの内訳はガイドRNA、制限酵素、SRY遺伝子プロモーター部位特異的ノックアウトメチル基付加配列。 3、経過観察  以下のフローが実現すれば望ましい。  ショウジョウバエのオスの精子(X、Yどちらでも可)に、導入したクリスパー・カセットが組み込まれる→XまたはYへ導入されたカセットの機序が発現→性染色体のSRY遺伝子をガイドRNAを指標に制限酵素で切断→DNAリカーゼによる修復を惹起→相同部位の交叉によるリペア→クリスパー・カセットが相同染色体側へもコピーされる。 4、実地への膾炙  Y染色体SRY遺伝子不活化メチル基付加パッケージ――以下〈メイル・キラー〉と呼称――を全世界の男性へ取り込ませる方法が課題である。 〈メイル・キラー〉はナチュラルキラー細胞そのものに入り込み、抗原提示を回避する仕様である。リンパ腺経由で血管へ侵入し、最終的に睾丸へ到達、減数分裂前の精原細胞へ自身をコピーする。  散布にはX染色体同盟(仮称)メンバーを動員する予定である。上水道、医療器具、食品など、あらゆる経路を通して〈メイル・キラー〉を全世界へばらまく。現時点で上記経路にアクセスできる賛同者が157名集まっており、今後も勧誘を続ける予定である。  シミュレーションの結果、1,000名の賛同者が組織的に〈メイル・キラー〉を散布すれば、およそ五世代あとにはY染色体の残存数は0.1パーセント以下にまで減少するという結果を得られている。 備考 X染色体保持者のみによる生殖技術の構築  Y染色体保持者を殲滅するのであれば、当然XX女性のみで人類を維持しなければならない。当計画では精子を完全に排除する方針である。手順は次の通り。  任意の二名から卵子を複数採取→配偶子調達として二個、器(除核未受精卵)として一個を使用→片方の卵子のゲノムインプリンティング配置を父性型へ置換→配偶子を融合→除核未受精卵へXX受精卵を移植→発生を確認したのち、任意の子宮へ移植→正常に胎児が発育。
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