4 異変あれこれ

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4 異変あれこれ

本当に偶然か!? 女児ばかりの大家族・ライアンさん一家(2030年9月 デイリー・テレグラフ紙の記事より抜粋)  テキサス州でトウモロコシ農家を営むウィリアム・K・ライアンさん(37歳)と妻のテレサさん(31歳)は子宝に恵まれ続け、現在八人の子どもたちを育てている。  不思議なのは両夫妻のあいだに生まれる子どもは必ず女児であるという点であろう。ライアンさんはこう語る。「参ったねどうも。将来あの子たちがでっかくなったときのことを考えてみろよ。俺の居場所は家庭にあるんだろうかね? だってあんた、家内も含めて九人の女性族に包囲されてんだぜ。俺なんかきっとダニ同然の扱いを受けるんだろうな」  それにしても奇異な現象である。単純に確率計算をしてみればそのことがより一層浮き立つ。新生児の性別が完全にランダムだとすれば、八人全員が女児である確率は二分の一の八乗、すなわち0. 3パーセント以下である。  現在テレサ婦人は妊娠七か月であり、あえて性別診断はしていないという。近隣住民のなかには新生児の性別を対象にしたトトカルチョを組織する者もいる始末で、九人めの胎児がどちらになるか注目が集まっている。      *     *     * インド政府、男子中絶を厳重に取り締まる方針を固める(2047年12月 インド政府議事録より抜粋)  わが国では伝統的に女児より男児を求める風潮がはびこってきました。女児の場合嫁入りの際の持参金が負担になるという理由からでした。  わが国はこうした事態を鑑み、持参金文化の撤廃運動、女児児童への補助金優遇などの政策で対応してきた歴史があります。その甲斐もあり、昨今では女児新生児の出生率がめざましい伸びを記録しているのは喜ばしいことです。  とはいえ最近の兆候はあまりにも露骨すぎると申さざるをえない。どことは言いませんがある北部の県ではここ数年、しているのです! 信じられるでしょうか。なんの罪もない男児が――それも将来アインシュタインやチャンドラ・ボースになったかもしれない男児たちが親の一方的な都合で皆殺しにされているのですよ。  わたしは人工中絶を請け負うクリニックを完全に違法とし、いままであいまいに濁されていた刑事罰を厳格に適用することをここに宣言します。もうこれ以上男性が不当に殺される野蛮な国家だという批判を受けないためにも、国民のみなさんには多大なる協力を求めるものであります。      *     *     * 少数民族、相次ぐ消滅(2090年3月 ニューヨーク・タイムズ紙(電子版)より抜粋)  出所不明のY染色体破壊をともなう遺伝子パッケージが猛威を振るうなか、個体数の少ない少数民族が次々と姿を消している。皮肉なことにこうした流れのなかで、ソ連解体以来続いてきた民族紛争がなし崩し的に鎮火し始めている。  中国やロシアは弾圧すべき相手を失い、国内の不満をどこへすり替えるかで頭を悩ませている由。日本は民族維持のために移民政策を大幅に緩和して久しいものの、男性の取り合いは熾烈を極め、獲得に四苦八苦している模様。→詳細記事は有料ページにて。
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