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04 噂の侯爵夫人
「来たわっ。まあ、なんて小さいんでしょう!」
「あれは旦那様ベタ惚れね」
「そりゃ厩舎も建てるわよ」
「仔牛まで買ってねぇ」
「こんな小さな娘に牛が懐くかしら」
「シッ! もう侯爵夫人よ。奥様ってお呼びしなきゃ」
「農場育ちって話よ」
「え? 男爵令嬢じゃないの?」
「かぼちゃ畑があるらしいわ」
御屋敷は大きかった。
そしてちゃんと厩舎もあった。約束を守ってくれたのだ。
あと、巨人族の群が……
「は……はじめまして。コレットです」
え?
なんで?
どうして使用人みんなビックサイズなの?
「奥様! こちらこそ、よろしくお願い致しますねっ」
「わからない事はなんでも聞いてください」
「もし迷ったら大声でお呼びくださいね」
「お部屋にご案内致します。お2階で、窓から牛のお家が見えますよ」
「奥様、喉が渇いていませんか? ミルクがこちらに」
「クッキーもありますよ」
「牛の名前はもう決まりましたか?」
「お料理に牛を出さないほうがいいってコックに言ってしまったんですけど、ご実家では育てた牛を召し上がっていたって旦那様が──」
旦那様。
ああ、サミーね。
それでどうして、みんなサミーサイズなの?
「あ、牛は食べます」
「あら大変! コックには私から訂正しておきますねっ」
「ああでもっ! 私の牛はまだ食べないから、そっとしておいて!」
「ええもちろんです! あの仔牛ちゃんは家族ですものねっ」
「お名前は決まったんですか? 私も仲良くなりたいです!」
ぺちゃくちゃぺちゃくちゃ……
9人の巨大なメイドに囲まれて、世話を焼かれているようでいて、捕食されそうな勢い。すごく。
「奥様! メアリーです」
「ジュディです」
「アリッサです」
「ミニーです」
「キャリーです」
「メアリーです」
「えっ?」
メアリー2人目!?
「エイミーです」
「エミリーです」
「エミリーです」
「えっ!?」
エイミーも2人?
あれ? エミリーが2人?
……メアリーが3人?
「奥様! 私が身の周りのお世話を致します。もし私がいなくても、他の8人が同様にお世話させていただきますからご安心ください」
「……」
名前、忘れちゃった。
「んぇあ……」
「はい! メアリーです!」
メアリー。
私の、お世話をしてくれる、巨人。
「私もメアリーです!」
「!」
もうやだ!
そんないっぺんに覚えられないよ!
動物なら見分けがつくけど、こんな大人数と同時に会話するのは初めてで、完全に負けた。
「コレット。どこだい?」
夫のボーモン侯サミュエルの声がした。
だけどメイドの壁に閉じ込められて、ぜんぜん見えない!
「ここよ!」
「ああ、挨拶をしてるんだね」
微笑ましいものを見るような声だけど、私は軽くパニック!
「ええ! でもここから出られないッ!」
「ほら、小さくて可愛いだろう?」
「ええ、旦那様!」
「とっても可愛らしい奥様です!」
「よくぞゲットされました!」
「仔牛の名前はおふたりで考えるんですか?」
「まあっ! 赤ちゃんみたい!」
「いや、ココが決めるよ。私は意見させてもらえない」
「あらまあっ! もう愛称でお呼びなんですか? 可愛いッ!」
「ああ、ココだ。私はサミー」
「キャーッ!」
「ココとサミー! 併せてコミー!」
「コミュエルでもサミュレットでもなかったわ! もう1段、上だった」
「みんな。ココと呼んでいいのは私だけだからな」
「もちろんです旦那様」
「奥様とお呼びしますとも」
「それで牛ちゃんのお名前は──」
私は、絶句していた。
なんだか……
とんでもないところに嫁いでしまった!?
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