06 朝のお勤め

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06 朝のお勤め

「キャッ! ココ様!?」 「ぅおっ」  寝室の扉を開けたら、エイ……モ……メリー、メアリーが聳え立っていた。  メアリー? 「おはようございます。お早いですね」 「ドムのごはんよ」 「ド……ああ、仔牛ちゃんですね! ご一緒します」  メアリー……が並んで歩き出した。  長い廊下をほぼほぼ競歩で突き進んでいる私の横で、メアリーはスイスイと歩いている。  足の長さが、妬ましい。 「駄目よ」 「えっ?」 「汚れるわよ」 「あ! だからそんな、男の子みたいな恰好なのですね!」 「そうよ」  私は実家から持ってきたシャツとズボン姿でブーツを履いて、髪もギュッと縛っている。反対にメアリーは、巨大といってもそこはメイドで、侯爵家の使用人らしい身綺麗なお仕着せだ。 「大丈夫ですよ。替えはいくらでもありますから」 「そういえば、どうしてみんな同じサイズなの? それもサミーの趣味?」 「まあ、そうとも言えますね」  階段に差し掛かると、私と同じ歩調でメアリーは下りた。きちんと1段ずつ下りるのだけど、なんだか小刻みに足踏みしているみたいでおかしい。  私は、普通に歩いていると思うけど…… 「小柄な可愛いメイドは旦那様を恐がって辞めてしまうんです」 「あー」 「どうしても我慢できないみたいで、いくら止めてもドレスを持って追いかけ回すんですよ」 「変態ね」 「でも結婚を申し込んだのは奥様だけですから、愛はホンモノですよ!」 「ねえ、」 「はい」  あってた! 「一歩で何段いける?」 「下りは3段ですね。ご覧になります?」  返事を待たず、メアリーがスカートの襞をぐいと持ち上げて、ガッガッガッと階段を下り始めた。やっぱりね。すごくしっくりくる。体に合わせた動きをするのがいちばんだ。 「凄いわね! 上りは?」 「8段ですね」 「怪物ね」  メアリーと仲良くなれてよかった。  私が階段を下り切るのを、笑顔で待っている。メアリーと目線が並んだ時、私の足元にはまだ5段残っていた。どんなシークレットブーツも無駄。私は竹馬に乗るしかないわ。 「サミーは朝が弱いわよね」  また並んで歩き出す。  全員サミーと同じくらいかもっと大きい使用人ばかりだから、私は日課のストレッチをもっと念入りにやっておこうと決めた。馬は顔を寄せてくれるけど、ここではそれをやってくれるのは夫のサミーだけだし、他の人にやられても困る。 「少し低血圧ぎみですね。朝食後に表情筋が動くまでは、見るからにデーモン(悪魔)です」 「そうなのよ。目が覚めるとまず隣を見てゾッとするの。私、死んじゃったかと思ったわ」 「元が色白ですから、朝は蒼いし唇も紫っぽいですよね」 「違う。私が」  メアリーが扉を開けてくれた。  清々しい風が吹き込んでくる。  まだ太陽の昇り切らない青白い空は、とってもきれい。  サミーの蒼白い顔は恐い。 「奥様が?」 「死んで地獄に落ちたかなって」 「まあ! そんな事は絶対にありませんよ。だってこんなに可愛くて優しい方ですものっ」  メアリーは陽気だ。  小さな農場は柵で囲まれた中に厩舎があって、水飲み場や牧草など、小ぶりなりに整っている。私が来るまでは馬丁のトムが管理してくれたらしい。ちなみに、ドムという名前を決めた後にトムの名前を知ったので、悪戯なんかじゃない。 「ココぉ~!」 「?」  サミーの声が聞こえた。  屋敷を見あげると、鰐のナイトキャップをかぶったまま、サミーが窓から手を振っていた。 「まあ、お元気」  メアリーが本気で驚いている。 「おはよぉ~っ!!」  口に手をあてて、手を振って挨拶をしてみた。   「おはよぉぉぉぉぉぉぉっ!!」  サミーは笑顔だ。  ただ、蒼白い頬に紫色の唇というだけ。  初日なのでメアリーには柵の外から見学してもらったけれど、サミーとメアリーが煩くてドムが興奮したので、すごく燃えた。  ただ、トムから苦情が出たわ……
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