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07 昼下がりの奥様
「奥様! お茶とお菓子をお持ちしましたよ!」
「ありがとう。そこ置いといて」
メアリーには悪いけど、今、目を離せない。
「まぁ~奥様ったら、もう……こんなお人形とぬいぐるみに囲まれてちょこんとお座りになってると、奥様もお人形さんみたいで可愛いですねぇ~」
「サミーもそう言ってた」
昼食後、私には重要な仕事が与えられている。
それは互いに交わした約束によるものだ。私はドムを買ってもらって、厩舎も建ててもらった。サミーは私を着せ替え人形にしていいし、彼の人形のドレスを私に縫わせていい。
サミーの言っていた、可愛いものを集めた部屋は、本当にあった。
普通に寝室の続き部屋だった。
「お口に入れて差し上げましょうか?」
「ほんと? じゃあ、お菓子ちょうだい」
「ええ、只今」
針仕事は得意だ。
好きでも嫌いでもない。ただ体を動かすのが好きなので、そのいちばん小さな作業ではある。破れた仕事着を繕うよりは、お祖母様のドレスや帽子をアレンジするほうが楽しいのと一緒。
縫って、縫って、縫うのみ!
「……」
「はい、奥様ぁ~。あーーーーーん」
私は口を開けた。
マカロンだ。色鮮やかな焼き菓子ひとつのお金があれば、家族みんながお腹いっぱいになるだけ卵が買える。
「まあ奥様、本当に器用でいらっしゃるんですねぇ。私の掌よりちっちゃなお人形ですよ、これ」
「ふぇえ」
「この髪を掻き分けるだけで目がしょぼついてしまいそう……その肩紐を縫うなんて。しかもお花の形にしていらっしゃるんですか?」
「……サミーが好きにしていいって」
口の中が干上がった。
「悶え悦びますよ、きっと」
「ねえ、紅茶ちょうだい」
「はぁい、奥様。採れたてダージリンですよぉ~♪ それにしてもどうして飾ってるだけのお人形の着てるものが破れるんでしょうねぇ。夜中に動いてパーティーしてたりして! キャッ♪」
人形のドレスがなんで破れるのか、聞くまでもない。
サミーは絶対にお人形遊びをしている。
いずれ私も付き合う事になるはずだ。
「パーティーって言っても女ばかりでしょう? 煩いだけよ」
「ふふふ、そうですねぇ。あ、そうしたら奥様、旦那様のお人形を作ってさし上げたらいかがでしょう?」
「サミーの人形? サミーを作るの?」
「そうです。きっと口を噤みますよ、恐くて。なんと言ってもデーモンですから」
メアリーくらい心が逞しくないとゲルシェ家の使用人は務まらないのかも。
「じゃあとびきり恐く作らないとね」
「もちろん〝ココ様〟も一緒に、ですよ」
「なんであなたが選ばれたかわかった」
「え?」
サミーの回し者だ。
控えめに言って、感性が似ている? サミーはメアリーになりたいとか?
「──」
私は人形を膝に置いて手を止め、前のめりになっていた体を起こした。
そして、カップを私の口の傍まで持ってきてニコニコしているメアリーを愕然と見つめた。
「……あなた、もしかして。サミーが女装してる?」
「ま、奥様ったら」
サミーとは似ても似つかないメアリーの手から紅茶を飲ませてもらって、鼻からいい香りがふぁーっと抜けた。頭がハッキリしてくる。
馬鹿な事を言ってしまった。やっぱり私は、おバカだ。
「思い出してください。何度、3人で、顔を合わせたの・か♪」
「……たくさんよ」
「疑いが晴れましたね」
「お詫びにマカロンをあげる。ピンクのをどうぞ」
「まっ、嬉しいですぅ~♪ 頂きますっ」
人形の背中に刺しておいた針を抜く。
サミーと私の人形を作るのはいいとして、もしメアリーもとなったら話は複雑だ。9個のメイドが揃うのが先か、私が名前と顔を覚えるのが先か……
「ドムちゃんも欠かせませんね♪」
「そうね!」
そっちで。
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