01 プロポーズ!

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01 プロポーズ!

「王都だぁーーーッ!!」  馬車からダンッと着地、両手を広げて空を仰ぐ。 「これこれ、コレット。はしたないわ」 「白々しいわよ、お祖母様。50年前の自分を見るようでしょ」  お淑やかなふりをして、ちっちゃな老婦人が馬車を機敏に下りてくる。愛するお祖母様のカサンドル・イレーヌ・シャルロワ伯爵夫人だ。私はお祖母様の若い頃にそっくりらしい。   「思い出してみて。初めて王都の土を踏んだあの日の事。興奮したくせに」 「土じゃなくて煉瓦だったわ。きれいなモザイク模様の煉瓦。ほら、あの噴水の前よ。今は錆びて黒っぽくなっちゃったけど、あれ銀色だったのよ?」 「ふぅーん。でも今は黒いの。あ、だけど安心して。お祖母様のお肌は今も、もっちりふわふわの色白な美肌よ!」 「もうっ、この子ったら!」  お互いに頬を優しく抓りあって、腕を組んで歩き出す。 「最初はどこに行く? おすすめは?」 「そぉねえ……仕立屋の角を曲がってしばらく行くと、とっても可愛い帽子屋があってね」 「お祖母様。いくら太っ腹の王様でも、街での買い物にはお金を出してくれないのよ」 「そうだったわ。ほんっと、ケチねぇ~」  お祖母様が私の腕をテシテシと叩いた。    今日は国王様の80回目・誕生祝賀祭3日目だ。  この国を挙げてのお祭りは、全国民が旅費・宿泊費すべて国持ちで招待されている。帰りは王宮からのお土産まで貰える。そして没落したとはいっても爵位を取り上げられるには至っていない一応貴族の私は、ジリ貧でなんとかやっている伯爵夫人のお祖母様と仲良くこの王都へやって来た。  一族の未来をかけて。 「あなたの帽子を買いたかったのに」 「この帽子も素敵よ~。サイズもぴったり」 「捨てずに取っておいてよかったわ。あと、あなたがアレンジ上手で」 「さずが、お祖母様の孫娘でしょ?」  今度は私が、お祖母様の腕をテシテシ叩く。 「リメイクしたほうが売れる」 「質屋も探さなきゃ。コレット、よく街を観察してちょうだい。私は遠くまで見えないから」  農場が忙しくて、あともちろんお金もなくて、それに没落令嬢って笑われるだけだし、社交界もまともにデビューできなかった私はこの王都旅行で金持ちの夫を捕まえるつもりだ。  うちの農場を助けてくれて、私を大事にしてくれる、お金持ちと。  なんなら成金の商人でもいい。  お祖母様は爵位にこだわってるから、口には出せないけど。 「?」  鐘の音が聞こえて辺りを見渡す。  ごった返している上に、みんな背が高くて遠くまではよく見えない。  でも、声が聞こえた。 「ねえ、お祖母様! 闘牛ですって! ぜひ見たいわ!!」 「後にしなさい」 「嫌よ!」 「コレット、ただ遊びに来たわけじゃないのよ。まずは夫を探し──」 「牛が好きな私を好きになってくれる人じゃなきゃ意味がないでしょッ!」 「たしかに、そうね」  ちっちゃな可愛いお祖母様だって、馬と鎧が大好きなのだ。  闘牛場の観客席に着くと、興奮した周りの人たちから二度見された。なんじゃこの小人族はって感じで。小柄で女だからって甘く見ているのだ。  でも闘牛が始まって大興奮で叫んでいると、私もお祖母様も周りの男性が持ち上げて見やすくしてくれた。  3戦が終わって額の汗を拭いた時、トントンと肩を叩かれた。 「なにっ?」  一緒に燃える仲間が増えたと期待して振り向くと、身綺麗な死神が立っていた。   「……」  いやいや。そんな非現実的なものはいない。  死神のような冷たい美貌の紳士だ。目で殺されそう。  でも私は今、燃えている! 「失礼。私はボーモン侯サミュエル・サシャ・ゲルシェだ。君は?」    ボーモン侯?  侯爵様ってこと? 「コレット・マルベール。没落した男爵家の令嬢よ!」 「そうか。結婚してくれ」 「──」  えっ?
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