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ここは、今大変人気の高い動物園です。
どこの動物園でも見られる動物だけでなく、珍しい動物や特別な動物も見ることができます。
どのコーナーも多くの人で賑わっていますが、ひときわ目立つのはトリのコーナーです。
北海道の雪に紛れて生活する真っ白な、雪の妖精の異名にふさわしいトリがいます。
名前はシマエナガ。
この動物園ではシーくんという愛称で親しまれています。 体長はスズメよりも小さく、真っ白でふわふわの毛、真っ黒なつぶらな瞳、その名の通り体長の半分くらいある長い尻尾。
どこを見てもぬいぐるみのごとき可愛さのトリは、動物園のアイドルです。
「今日もたくさん人が来てるなぁ。ほらほら、可愛いぼくを見てー!」
その小さな体にも関わらず、他のトリと変わらぬ大きな囲いがシーくんの巣です。
飛び回るには十分な広さです。
小さな羽をすばやく動かして見せると、周りにいた人々から歓声があがります。
シーくんは嬉しくて、また元気に飛び回ります。
ふう、今日も疲れたなあ。
夕方になると、人はいなくなります。
日中はたくさんの人にかこまれているシーくんの巣も、この時間は静かです。
どこかで、誰かの鳴く声がします。昼の活気はどこへやら、不気味なほどの静寂に、動物園の動物たちは息をひそめます。
シーくんには、悩み事がありました。
最近、昔ほど人々が騒いでくれないのです。
シーくんは自分が可愛いと知っているので、その可愛さを最大限に引き出せるよう飛んだり木に止まったりします。
人々が持っている平たい箱は自分の可愛さを一瞬で絵のように切り取る魔法が使えるのだと、カラスのおじさんに教えてもらいました。
カラスのおじさんというのは、よくシーくんのもとへ遊びに来る野生のカラスです。
黒くて、大きくて、鋭いくちばしをしていて、ちょっと見た目は怖いですが格好良くてなんでも知っている物知りさんです。
そして、これはシーくんだけが知っている秘密なのですが、おじさんは魔法使いなのです。
月明かりが、囲いの正面にある池を照らす頃。天井に何かが降り立つ音がしました。
「よう」
低めの声。姿は夜に溶けていて輪郭が把握しづらいけれど、それはシーくんにとって嬉しい訪問者です。
「おじさん!」
パタパタとすばやく羽を動かし、天井に最も近い木の枝に止まります。
「ひさしぶり、どうしてずっと来てくれなかったの?」
「悪いな。ちょっと遠い土地に行ってたんだよ」
「魔法の勉強?」
「お前は知らなくていいんだよ、コトリちゃん」
「けちー。……あっ、ねえねえおじさん。
今ぼく悩んでることがあるんだ。聞いてよ。
最近、人があんまりぼくを見てくれないんだ。こーんなに可愛いのに」
会ってすぐに開始される悩み相談も、今に始まったことではありません。おじさんも気にすることなく答えてやります。
「そうは言っても、お前動物園では人気なほうだろ。贅沢だぜ」
「だってえ。ねえ、おじさんの魔法で他のトリを醜くすることはできないの? 別にさ、ウサギやキリンに負けるのはいいんだよね。だって違う可愛さだもん。だけど、トリに負けるのは許せないんだよね。ぼくが一番可愛いんだからさ」
「いいじゃないか、他のトリなんか気にしなくて。あいつらだって必死に生きてるんだから」
呆れたようなカラスに、なおもシーくんはふくれつらです。
「今夜のお前さんはわがままだな。他のトリを醜くはできないが、会いに行くことならできるぜ。コトリちゃん、外へ行こう」
外……? 確かに、動物園に来て以来、一度も外へ出たことはありません。なんだか面白そうな提案です。
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