娘・さとみ

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 昇降口についたら、雨音はより強く、私を責めるかのように鳴り響いていた。  ゆっくりと上履きをげた箱に入れ、外履きをそっとおろす。このお気に入りの靴も、びしょぬれになっちゃったら明日は履いてこれないかもって、どうでもいい事を考えながらそっと靴に足を通した。  ゆっくりと歩を進めると、背後から私は肩を叩かれ驚いた。心臓が飛び出る位っていうのは、こういう事を言うんだとその時思った。雨音が激しすぎたせいで、他に誰かがいる事にも気が付かなかったせいもあると思う。 「よっ」 「もう、脅かさないでよ」  声を掛けてきたのはさとる君だった。さとる君とは幼稚園から小学校までずっと一緒のクラスだったけど、中学に上がってからは別々のクラスになり、話す機会もなくなっていた。 「もうみんな帰っちゃったのに、なんでお前まだいるの?」  そう、教室を出たのは最後じゃなかったけれど、足取りも重く階段を下りているうちに、私の脇を友達は足早に掛けていって、気が付けば私一人になっていた。 「あ、あんたこそ」 「明日から部活ないだろ。だから俺は部室にユニフォーム取りに行ってたの」 「あ、そうなんだ」  毎日持ち帰らないのはさとる君ぐらいじゃないの、と言いかけたその時、さとる君から言われた一言に、またまた心臓が飛び出しそうになった。 「久しぶりに一緒に帰ろっか」  帰る方向は一緒だった。幼稚園でも、小学校でも、そして、中学になってからも。  確かに小学校までは一緒に帰っていた。そして、その時は気付いていなかった。自分の恋心に。 「あ、相合傘なんてやめてよ。友達に見られたらどうすんの!」  咄嗟にそう言って、すぐに我に返った。さとる君はそんな事、一言も言ってないのに、私は勝手に勘違いしたと気付く。 「だ、誰もそんなこと言って…って、もしかしてお前、傘忘れた?」  その時の私の顔は、どんなに熟したトマトにも負けないくらいに真っ赤だったと思う。  ゆっくり頷くと、さとる君はスポーツバッグに手を入れた。 「確かこの辺に…あ、あった」  そう言って出された手には、可愛げのない真っ黒な折り畳み傘が握られていた。 「ほれ」  そう言って、手渡しではなく、私にそれを放り投げた。 「あ、ありが、とう」 「おう。じゃあな」  さとる君は私に背を向けて傘を広げた。 「ま、待って…」 「ん?」  広がり切った傘を外に向けたまま、体を捻って私に向いてくれたさとる君に、私は思い切って言ってみた。 「い、一緒に…帰ろ」
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