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Act 0
残業続きの仕事を早く終わらせ、俺は会社を飛び出した。
遅くなった。
タクシーにでも乗ろうかと道に目をやった。
その人は、歩道にある手すりに腰を掛けていた。
ピンクのワンピース姿。
細い体を隠すようなふんわりとした生地が風に揺れ、頭を隠すための小ぶりな帽子を押さえた。
彼女の前に立った。
僕を見あげると彼女は立ち上がりこう言った。
「迎えに来ちゃった」と舌を出した。
何時でも待っているというメールをもらったのに。
俺は彼女を抱きしめた。
許したわけじゃないからな。
まだ、恋人でいてくれる?
フーン、それだけでいいんだ。
ヤダ、離さないで。
俺の背中に回った腕に力が入った。
「もう忘れるなよ」
俺の胸の中で頷く彼女の背中をさすってやった。
彼女に会ったら何から話そう。
そう思っていたのに。
言葉はいらなかった、二人、久しぶりにお互いの熱を感じていることができたのだから。
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