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001 気づいたら森にいたんだが現状を把握してみる
目を開けると、そこは森の中だった。
「…はぁ?」
俺は呆然と辺りを見回す。
周囲には木が乱立していて、明らかに今まで過ごしていた場所ではないのがわかる。次に自分の格好を見てみるといつも着ているジャージではなくいくつか時代遅れの麻の布で出来た服を着ていた。靴も、履きなれたシューズではなく革でつくられたものだった。
「なんだこれ…一体ここは何処なんだよ……」
俺はここにどうやって来たのかを思い出そうとしたが少し前までの記憶がなく、わからなかった。一番最後の記憶はいつも通り会社からくたくたになりながら住居としているアパートに帰り、夕餉も食べずに布団に入り寝落ちした。
そこで目を開けたら、森だ。全く意味が分からない。
とりあえず何をすべきなのだろうか、木の幹に寄りかかって考える。俺はサバイバルの経験はない。都会で生まれ、都会で生きた男だ。特に得意とするものもなく、ライトノベルをよく好んで読んでいただけだ。
ライトノベルでよくある流れだったが、先ずは水の確保だ。人間には水と食料と休養が必要になる。水を飲まないのなら三日、食べないのなら一週間で死ぬとどこかで聞いたような気がする。三日と言っても、死ぬまでであり活動が出来なくなるのはもっと前になるだろう。
そういえば、暫定昨日では夕食を食べなかったが腹は不思議と空いていなかった。記憶のない空白の時に食べたのだろうか。
空を見上げてみると木が密集しているので枝や葉が邪魔して見づらいがちょうど太陽が頂点に昇っていた。なので日が落ちる前に水場を見つけたいので思考を中断して森の中を歩く。
木が整備されていなくて足元も根が絡まったりしてるからやはり人はいなかったりするのだろうか。だけど自分が住んでいたところの近くには森はあったけどこんな鬱蒼としたところではなかったはず……中に入ったことはなかったから少し自信がない。
根っこに足を引っかけながら水場を探す。
「お…果物が生ってる。取ってみるか」
だけどどうやって取るか、丁度ジャンプしたら届きそうでもある。試しにと、ひざを曲げて地面を蹴った。
「う、おおっ!?」
思っていたより高く跳んでいた。木より高い、思ってもみなかった事態に俺はバランスを崩して尻から落ちてしまった。痛い…
「痛てて…本当にどういうことだよ…」
どうやら跳躍力が今までにないほど上がっているらしい。あの高さから落ちたにしてもそれほどまで痛いということはないし、丈夫にもなっていそうだ。
もう一度、跳んで果物をもぎ取る。紫色で梨みたいな形だった。知らない果物だ。日本…ではないのかな。毒があるかわからないから食べるのも怖いが、他に食べるものが見当たらないので恐る恐る食べてみる。
「ん?結構いけるな。」
毒々しい色で度胸がいるけど食べてみると結構美味しかった。梨みたいな見た目にもかかわらず、薄皮の下には柑橘のような果肉があって、甘みも十分だった。今まで食べた果物の中で一番の美味しさだと思う。
夜の帳も落ちてきて、木の上で寝ることにした。今日は出会わなかったが獣がいると考えたからだ。遠くでも唸り声が聞こえてくる。木の上も落ちたら危ないとは思うが、地面で寝るよりは安全だと、思う。
乗っても大丈夫そうな太い枝に乗る。ぎしぎしと鳴って怖いが、大丈夫だと思い込むことにした。
中々寝られないので現状整理をすることにした。
俺は気がついたら森にいて、それ以前の記憶は無し。最後の記憶は家に帰ってすぐに寝たということ。服装が変わっていること。果物が特殊なことから少なくとも日本ではないということ。跳躍力や身体の頑丈さが高まったこと。
後、水がないし持ち物も何もない。これは致命的だ。水は辛うじて果物から摂取できるがそこまで多く接種できないし、そんなに量がない。
そして持ち物、せめてナイフでもあれば色々と使えるだろう。心の安心も何も持っていないよりは確保できる。一応、ズボンについているポケットも探してみたけど何も入ってなかった。
これらを踏まえて今後どうするかだが、先ずは何度も言った通り水の確保。川や池があればいいんだが…
それで次に人を探すか森を抜ける。水や食料があったっていずれにしても限界は来る。都会で生きてきたから獣と戦える自信はないしな。相対したらきっと恐怖で腰が抜けると思う。今日は獣とは会わなかったがずっと会えないという道理はないからな。それにベットで寝たい。枝は固いし、バランスが悪い。落ちたら痛いと思うし。
アオオオ~~ン
「うわっ!!?やべっ!!」
急に遠吠えが聞えたからびっくりして落っこちてしまった。今日だけで二回も落ちたよ。これ以上は勘弁してほしいが。怖いのですぐに木を登る。さっきまで腰を掛けていた枝に乗ってようやく安心できた。
声からして狼だろうか、いやでも日本ではないし知らない動物も多いから違うかもしれないけど。でもやっぱり危険だ。早く森を出てしまおう。出口わからないけど。
緊張したら喉が渇いてきたので念のため持っていた紫梨を食べて喉を潤す。溢れる果汁が顎を伝った。それを腕で拭って思考を再開する。
とりあえず、自分が獣に出会ったらどう動くかを考える。兎とか温和な動物なら多分大丈夫だろう。それで問題なのは狼とか熊とかの凶暴な動物だ。熊には死んだふりをするといいと言われているが、実際はやってはいけないらしい。普通に襲われると聞いたことがある。だったら逃げるのはどうだろうか、跳躍力が大きくなっているということは蹴る力が大きくなっているということ。ならば走る速さも大きくなっているのではないだろうか。
…狼とかから逃げ切れるかはわからないが
なら、俺の意識が動きに追いつけるかというのもある。速くても、周りがちゃんと見えなければ木にもぶつかったり転んだりするだろうし、最適な行動が出来ない。だから、明日明るくなったら広い場所に出て身体能力を確認してみよう。強化されたのが跳躍力だけではないかもしれないし。
逃げきれない場合はどうするか…熊だったら木が邪魔して逃げられるだろうし、狼だよな…
…木に登るか。それで、登ろうとしてくる場合だけど上から石を投げて追い返す。逆上してくる可能性もあるけど、どうしようもないし、他には思いつかないからそれしかない。
また明日になるけど石とか拾うようにしよう。投げて武器になるし。
「本当に、どーなってんだろ…」
独り暮らしだったけど寂しい。後ご飯食べたい、果物だけじゃ全然足りないし。
俺は慣れない環境で疲れていたのか、延々と考えていたが次第にうつらうつらと睡魔に吞まれていった。
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