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あの子達にあんな顔させたくなかったのに…心に小さな棘が刺さる。
少し凹んだ山吹と勿忘が連れ立って出て行った後、ガラスのコンポートに盛られたそれをひとつ摘み、しゃくりと噛み締めた。
「うわっ、甘酸っぱいっ!美味しいっ!
ばあちゃん家と同じ味…山吹、ありがとう!」
部屋を出た山吹に聞こえるように大声でお礼を告げ、味わいながら食べていると……いつの間に側に来たのか、まるさんが例のごとく俺にべったりとくっ付いていて離れようとしない。
「…ねぇ、まるさん。」
「ん?何だ?…もしや…食べさせてほしいのか?
何なら口移しで」
「まるさんっっ!!!!!」
隙あらばキスしてこようとするまるさんを大声で制した。
びくっ
まるさんがフリーズした。
俺に対するまるさんの愛情(=執着)は、日を追うごとに増している…気がする。
いや、『気がする』レベルではない。
マシマシに増しているのだ。
「まるさん、確か今日は日登山の崖崩れになりそうな所を見に行くのではなかったの?
大雨が降ったら大変なことになるよ?
いい天気が続くうちに早く対処しないと!」
「…もう、終わった。」
「え?めっちゃ早いじゃん!
眷属のみんな、危険な所が何カ所もあるって言ってなかった?
みんな大丈夫?怪我なんかしてない?」
「…大丈夫だ。」
まるさんは、ふいっとそっぽを向いて答えた。
あ。
これは…拗ねている。何で?
俺が拒否して怒ったからか?んー…違う。
一緒に暮らすようになってから、まるさんは“凛々しいまるさん”がどんどん崩れていって、俺の前では隠すことなく喜怒哀楽を露わにし、特に“甘えた”の部分をはっきりと出すようになった。
『お互いに隠し事をなくそう』『思っていることはちゃんと伝えよう』と決めたから、俺もそうしているんだけど。
お山で何かあったんだ。
俺はまるさんににじり寄ると膝立ちになり、頭をそっと抱きしめた。
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