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頬を撫でる柔らかな風を受け、俺達はゆっくりと湖の方へ向かっていた。
大きく息を吸い込むと、甘くて爽やかな花の香りで胸一杯満たされる。
子供のように、いや恋人同士のように繋がれた手から伝わるまるさんの温もりは、心地良くて物凄く懐かしくて……必死に記憶を辿ろうとしていると、何か、何かぼんやりとしたものが脳裏に浮かんできて…
2人が寄り添うようなシルエットが見えてきた、と思った瞬間、
「うぐっ」
突然、ぎりぎりと頭を締め付けられるような強烈な痛みに襲われ、まるさんの手を振り払うと頭を抱えてその場にしゃがみ込んだ。
「慎也っ!?」
慌てて俺を抱え込んだまるさんの焦った声がする。
痛みが、さっき薄ぼんやりと見え始めていた何かを掻き消してしまった。
まるで、思い出すのを何者かに邪魔されているみたいだった。
(痛い。痛過ぎる。こんな痛み、今まで感じたことなんかない。
俺、このまま死んじゃうのかな)
あまりの痛みに手足の先から血の気が引いて冷たくなっているのを感じていた。
視界も霞んでいく。
俺の名を必死で呼んでいるであろう、まるさんの声も次第に遠くなっていく。
(あぁ、そんな辛そうな顔しないで)
そう伝えようとするのに、唇さえ動かない。
俺はまるさんに抱きしめられたまま、ゆっくりと意識を手放していった。
身体がふわふわする。
あれ?俺まだ夢の中なのかな。
きっとそうだ。
だって、まるさんと出会って空を飛んだなんて、夢物語だろう。
その後…歩いている途中で酷い頭痛に襲われて…あぁ、よかった。もう痛くない、大丈夫だ。
それから?それから…
「慎也、気が付いたのか!?」
「…あれ?まるさん?夢、続いてるの?」
「…夢じゃない。…心臓が止まるかと思った…痛みはどうだ?もう治まったのか?」
「うん、もう大丈夫。」
そう言いながら起きあがろうとする俺をまるさんが制した。
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