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今でも過去の“あの出来事”は、俺だけではなくまるさんの心にも見えない傷として残ってしまっている。
まるさんにすれば、もしも万が一、俺に一方的に思いを寄せる誰かにまた攫われたり、危険な目に遭ったら…と、突然不安になることがあるらしいのだ。
いくら神様だって、そうなっちゃうんだ。
一度ついた傷は消えない。
普段は何でもないのに、ふとした瞬間に蘇って俺達の精神に悪さをする。
あのまるさんでさえ、100%克服できていない傷。
ましてや、俺なんて…
だから、だからこそ、それを受け入れ認めて、2人で前を向いて歩いていくんだ。
例えその傷は、消えなくても薄くなっていくはず。
その痛みをなかったことにはしない。
俺達は、前よりも、ずっとずっと絆は深まっているし、強くなっている。
痛みや傷を持ったまま、進んでいくんだ。
俺も、思いっ切りすりすりと身体を擦り寄せる。
「…まるさん、もう、もう大丈夫だから。
心配いらないよ。
あんなことは、もう二度と起こらないから。
もし…もしも天地がひっくり返ってそんなことがあったとしても…俺は二度と同じ目には遭わない。
どんなことがあっても、絶対に絶対にまるさんのところへ戻ってくる。」
「慎也……」
「だからね、まるさん。心配しなくても大丈夫だよ。」
「…慎也が大丈夫だと言うと、本当に大丈夫に思えるな。
何があっても、今度は絶対に俺が守ってやる!」
顔中にキスの嵐が舞い降りる。
擽ったいけど…キモチイイ…
「…慎也、口の周りが甘酸っぱい。
何を食べたのだ?」
「あっ…さっき山吹が大きなグミの実を採ってきてくれて。
でも、この辺にないものだし、手も傷だらけで…きっと危ないことをして手に入れたんだと思って、ちょっと叱ってしまったんだ。」
俺は、ふぅ、と大きく息を吐いた。
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