エピローグ

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こんなことで幸せになるなんて、私って安いもんだわ。 でも、こんな美味しいものを独り占めなんて、ちょっと気が引けるわね…幸せは誰かとシェアしなくちゃ! …そうだ!まるさんにも食べてもらおう! きっと甘いものもお好きなはずよ。 だって今までだって、お饅頭やらケーキやらお供えしてきてるもの。 うちのまるさんはハイカラさんなのよ。 お供えして何か変事が起こったことなんてないから、大丈夫。 ふふっ、と笑いながら、とぷとぷと注いた紅茶は美しい琥珀色になっていた。 お供え用のお盆に紅茶とクッキーを乗せ、祠の前にそっと置いた。 「まるさん、先に食べちゃってごめんなさいね。 お味見させてもらったわ。これ凄く美味しいの。 お裾分けよ、さ、どうぞ召し上がれ。」 もう一度手を合わせ、ウインクをして戻ってきた。 そして、お気に入りのティーカップとソーサーを揃えてお盆に乗せると、縁側に持って行った。 小さなテーブルと椅子。 お天気がよくてのんびり過ごしたい時にうってつけの場所だ。 ここからは祠が見える。 「まるさん、かんぱーい!」 カップをそっと上に持ち上げ、ゆっくり口に含んだ。 網戸越しに爽やかな風が入り込んでくる。 庭先には風に揺られてちらちらと見え隠れする萩の花や、咲き誇るコスモスが可愛らしい。 亡くなった主人が好きだったリンドウも、しっかりと根付いて濃い紫色の花を咲かせている。 私達が何を思おうと何をしようと、花は美しく咲いて、ちゃんと朝はやってくるし、時は流れている。 あぁ、人間ってちっぽけなものなのね。 突然誰かの声が聞こえた。 「ばあちゃーんっ!クッキーありがとうっ!」 えっ!?誰!? 若い男の子の声。 幻聴かしら…嫌だわ。 でも…不思議なことに懐かしくて堪らない。 胸一杯に『愛おしい』と言う気持ちが広がっていた。 ぽろっ あれ?どうして涙が?
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