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「そうでしょ!?…うん、美味しいね!
勿忘、山吹、どう?」
「はむっ………美味しゅうございます!
かりっ、ほろほろと口の中で解けて…あの…もっといただいても?」
「美味しいですっ!
おばあ様は美味しいものをよくご存知なのですね!
これは幾つでもいただけますっ!」
「勿論!みんなで食べた方が美味しいに決まってるよ!」
みんなの手が伸びて、あっという間にお皿は空っぽになった。
次第に無口になっていった俺に、まるさんが心配そうに声を掛けてきた。
「慎也…お前の好きなものを食べ尽くしてしまってすまぬ…
少しでもよけておけばよかったな…」
「あっ、違うよ!そうじゃない。
俺はみんなに食べてもらって嬉しいんだよ!
何だか…ばあちゃんに会いたくなっちゃって……年もとってくるしずっとひとりだしさ、色々と心配なことが多くなってくるんだよね……」
まるさんは俺の顔をじっと見て言った。
「慎也…初江の顔を見に行くか?」
「え!?…でも…俺のことは…」
「そうだ。初江達の記憶には残っていない。
俺と縁を結んだことで、慎也の存在は消えてしまっているからな。
……俺のこと、恨んでいるか?」
「ふふっ…恨むだなんて……今更何言ってんの。
…ねぇ、まるさん、俺のこと何だと思ってるの?
生涯唯一無二の伴侶だろ?
離したくなくて離れたくなくて、色んなこと引っくるめて乗り越えて一緒になったんだろ?」
段々と腹が立ってきて怒鳴り声になった。
俺の纏う空気が変わったことに気付いた勿忘と山吹が、ハラハラしながら耳をぺしゃりと伏せて縮こまったのがわかった。
勿忘、山吹、大声出してごめん。
でも、止まらなかった。
「そんな相手を愛しこそすれ、恨むなんて訳ないじゃないかっ!!!
まるさんを選んでここに来た俺に、そんな言い方しないでっっ!!!」
納得づくで置いてきた現世に急に蘇った未練が、俺を翻弄する。
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