エピローグ

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まるさんは俺をじっと見つめたまま黙って聞いていた。 俺は、何か言葉にしたくてもそれ以上の言葉が見つからなくて、まるさんを見返してその場に立ち尽くしていた。 泣くつもりなんてないのに、涙がひと筋ふた筋、と頬を流れ落ちる。 すっ…とまるさんが俺に近付いて、胸の中に閉じ込められた。 抱きしめられ、背中を優しくとんとんと叩かれている。 「…慎也、俺の物言いが悪かった。 そんなつもりで言ったのでは毛頭ない。 泣くほど嫌な思いをさせて悪かった…すまない。」 「…っ…ぐすっ…」 「あぁ、俺は言葉が足りなくて困る。 慎也の気持ちは十分わかっておる、わかっておるのだ。 一体どうしたら慎也が機嫌を直してくれるのか。」 慌てふためくまるさんと、その側でおろおろする勿忘と山吹。 拗ねて泣いてごめん。 まるさん、俺だってわかってるんだよ。 もうあちらの世界では、誰も俺のことを思い出すひとなんていない。 全てのことを無くしても後悔なんかしないと、それを選んだのは俺。 ただ、ただ… 「…のぅ、慎也。初江の元気な顔を見に行くか? そうすれば少しは安心するであろう?」 俺は少し躊躇したが、無言で頷いた。 ホッとした様子のまるさんは、俺の涙を拭き取りキスをひとつ落とすと、勿忘達に俺の支度を手伝うように言った。 まるさんの伴侶になって、初めての“里帰り”。 元人間の俺は、早々に元の世界に帰ってしまうと神界に戻れなくなることがあるらしく、十分にこちらに馴染むまで時期を見計らっていたそうだ。 まるさんは自由に行けるけれど、俺には時間が必要だったらしい。 そんなことも知らなかった。 「そんな事情があるなんて…もっと早く教えてくれたらよかったのに。」 「一度帰ると…里心がついて、そのまま元の世界に帰られたら困ると思っていたから…」 まるさんはバツが悪そうに呟いた。
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