エピローグ

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再びばあちゃんに視線を移すと、何度も頬や目尻を拭っているのが見えた。 …泣いてる!?どうして?何があった!? ばあちゃん自身も何故泣いているのか戸惑っている風に思えた。 「まるさん、ばあちゃんどうしたんだろう…」 まるさんは、握った俺の手に力を込めると 「慎也の声が届いたのだ。 幾ら記憶が消えても…魂が慎也の声を覚えているのだろう。 初江は訳がわからないのだろうが、きっとその声が懐かしくて愛おしくて…胸が一杯になったのやもしれぬ。 慎也、お前はずっとずっと愛されているのだよ。」 「…そっか…ばあちゃん、覚えていてくれたんだね…」 俺はまるさんに身体を預け、未だ涙を拭うばあちゃんを見ていた。 「…さぁて、供物のお礼に、初江に何か加護を授けるとしようか。」 「加護?そんなことできるの?」 「ふふん。俺を誰だと思っておるのだ?」 ふん、と胸を張ったまるさんが、空いた右手を目の前に差し出すと、丸いシャボン玉のような美しい球が現れた。 それをそっとばあちゃんの方に差し出すと、ふわふわと飛んで行き、ばあちゃんの頭上でくるくる回っていたかと思うと、ぱん!と弾けて消えた。 吃驚して目をぱちぱちしていると、まるさんが得意気に教えてくれた。 「特別に、事故や病気を遠ざける(まじな)いをかけた。 これで初江は寿命を全うするまで、元気に過ごせるぞ。 天に向かうべき時が来れば、苦しまず大往生を遂げるだろう。」 「ホントに!?まるさん、ありがとうっっ!!」 俺は嬉しくて嬉しくて、まるさんにぎゅうぎゅう抱きついた。 慎也がこの世に残したたったひとつの未練は、薄情にも両親のことでもなく、仕事のことでもなく、この地でひとり静かに暮らす祖母のことだった。 しかも、記憶がないはずの祖母が、慎也の発した声に反応し泣いてくれたのだ。 (…よかった。これで本当に心置きなく神界に帰れる。)
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