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お膳の上には幾つもの小鉢や皿が乗り、それぞれに煮物や和え物、酢の物、刺身に山菜の天ぷらだろうか、色々なご馳走が美味しそうに上品に盛り付けられていた。
「海の幸山の幸の宝石箱…」
思わず口から零れ落ちた言葉に、勿忘さんが嬉しそうにころころと笑っていた。
「さぁ、慎也様。お召し上がり下さいませ。」
「俺だけ?まるさんのは?勿忘さんは?」
「私は大丈夫です。
まる様の分もちゃんとご用意してありますよ。
ご一緒にどうぞ。」
「もう起きれるからまるさんと食べたいな。
ね、勿忘さんも一緒に食べよう!
まるさん、いいでしょ?
他には誰かいないの?」
「まる様…私も、よろしいのですか?」
まるさんが頷いた。
「ありがとうございます。
ではこちらの部屋にご用意し替えましょう。
まる様のお側付きはもうひとり、山吹という者が控えております。
まる様、山吹も慎也様にお目通り願えませんか?
先にお目通りしていただいた私のことを障子の陰から睨み付けている様子でして…」
勿忘さんは可笑しくて堪らないという風に肩を震わせている。
まるさんも笑いながら頷いて
「山吹!」
と声を掛けると、薄い黄色の狩衣に、本当に花の山吹のような色の指貫を着た、これまたうさぎ耳の少年が、待ってましたとばかりに跳ねるように現れた。
「神子様っ!お帰りなさいませっ!
山吹にございますっ!
この日を…この日をどんなにお待ち申し上げておりましたことか……」
先程の勿忘のように頭を深く伏して、涙声で俺に挨拶をする。
(神子って…やっぱり俺のこと?
お帰りなさいませって…俺は元々ここに住んでいたというのか?
どう答えたらいいのか…戸惑いを隠せない俺は思わずまるさんに視線を送った。
まるさんは2人を咎めるように
「お前達が余計なことを言うから、慎也が不安に思っているではないか。
…そんなことより、さあ、膳の支度をしてくれ。」
「「はっ、はいっ!!」」
ぺこりとお辞儀をした勿忘さんと山吹さんは、慌てて隣の部屋へ支度を始めた。
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