いにしえの約束

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「美味しいっ!おかわりもらえる?」 「慎也様のお口に合ってようございました。」 勿忘さんが嬉しそうにご飯をよそってくれた。 懐かしい味がするのは何故なんだろう。 俺は、この味を知ってる。 この場の雰囲気も、皆の笑顔も知ってる。 たわいもないことで笑い合い、時々むくれて喧嘩になりそうになったり。 その度毎に美味しいご飯で仲直りしてきた… 段々と口数が減ってきた俺をまるさん達が心配して様子伺いをしているのがわかる。 気分が悪いんじゃないよ。 ただ……ただ… 胸が一杯になってきて、箸を置いた。 「慎也?」 「…俺…この味…知ってるよ… 美味しくって懐かしくって、毎日食べてた…と思う… それに、みんなでここで笑いながらいろんな話をしてたことも…何となくだけど覚えてる…」 思わずそう呟くと、まるさんが俺を抱き寄せた。 「…そうか…少しは覚えていてくれたのか。 勿忘、山吹。 お前達の愛情がこもった食事を慎也は覚えている。 存分に食べさせてやってくれ。」 「「はいっ!!!」」 勿忘さんと山吹さんはそっと目尻を拭いながら部屋を出ると、また小鉢の乗った新しい膳を運んできた。 「慎也様、こちらもお召し上がり下さい!」 まるさんを見ると、にっこりと微笑んで頷いた。 その目にも、薄らと涙の膜が張っていた。 俺はまるさんに引き寄せられるまま、じっとその身を預けていた。 思い出したい! 俺がここでどんな暮らしをしていたのか。 3人の様子を見るにつけ、俺はとても大切にされていたことがわかる。 また俺も、3人に心を許していたことも。 …どうして“それら”を覚えてないんだろう。 さっき、思い出そうとした時にあの頭痛が起こってしまった。 何故!? 思い出したらダメなことなのか!? でも、まるさんは俺がここにいた時のことを覚えていないことに、とても落胆していた。 何かが邪魔をしている。 一体それは何なのだろう!?
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