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柔らかくでも力強く抱きしめられて、とくとくとく、と、まるさんの心音が俺の身体を包んでいる。
やがてそれは血流に乗って、俺の全身を満たしていった。
俺の細胞のひとつひとつにまで染み渡るように…
最初は弾むように刻んでいた俺の心音も、まるさんのそれと同化していって、ひとつの音に変わっていった。
俺はまるさんの襟元にそっと手を当て、頬擦りをして目を閉じた。
心地良くて、懐かしくて、愛おしくて、切なくて…
次第に胸に迫り上がってくるこの思いを何と呼べば良いのだろう。
恋?
いや…恋と呼ぶには物足りない。
これは……愛、だ。
俺の髪の毛に何か柔らかいものが当たった。
そこから戸惑うような声が聞こえてきた。
「…慎也…」
くっ、唇!?頭にキス、されてた!?
反射的に少し離れてまるさんを見ると、口元を押さえて俺を見つめている。
手のひらで隠しきれなかった目元や耳が、真っ赤に染まっていた。
「…そんなかわいいことされたら…俺の思いが爆発してこの場で押し倒して抱き潰しそうだ…」
「うわあっ、ごめんなさいっ!」
「先に手を出したのはまる様ですよっ!」
「そうですっ!慎也様のせいではありませんっ!」
「あっ、ご飯!ご飯が途中だった!
こっちのも食べてもいいですか!?」
俺は慌ててまるさんから離れると箸を引っ掴み、追加のお膳にも手を出して掻っ込んでいった。
俺を抱いていた時のままの格好で、暫く固まっていたまるさんは、ふぅ、と大きな息を吐き、くくくっ、と笑うと自分の膳の前に座り直した。
「…慎也…そうがっついて食べなくとも。
まるでこりすが口一杯頬張っているようで…これもまたかわいくてならん。堪らんのう。」
「んぐっ」
「慎也様っ!お茶をっ!」
「慎也様っ!」
『かわいい』と言われて、飲み込もうとした食べ物が喉に詰まった。
勿忘さんがお茶を飲ませてくれ、山吹さんが背中を摩ってくれた。
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