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玄関の天井には大きな梁。
土間は一体何人の靴が並ぶのかという程広い。
目隠しには、これまたお決まりのような大きな一枚板の衝立が。
観光地によくあるような、ナントカ文化財に指定されるような古民家みたいだ。
「…うわぁ…全然変わってない…あの頃のまんま…」
「そうね。
玄関は殆ど触ってないけど、座敷はリフォームしてあるのよ。
まぁ、1番変わったのは私達が年を取ったことね。
荷物は奥の部屋において頂戴。自由に使っていいから。」
「うん、ありがとう!
あ、これじいちゃんにお供えと、これはお土産。」
「あら、ありがとう。先にお供えするわ。
あの人もきっと喜ぶわよ。」
「俺も行くよ!」
案内された部屋にスーツケースを置き、微笑む祖母の後を追って仏間へ急いだ。
「はぁ…仏壇もデカイ…おまけにこんな細かい細工で。
ばあちゃん、これ掃除も大変だろ?」
「ふふっ、もう慣れちゃったわ。」
俺は正座して、蝋燭に火を灯し線香を立てりんを鳴らした。
花のような柔らかな香りのする煙が緩やかに立ち上っていく。
静かに両手を合わせると、殆ど記憶の薄れた祖父に向かって、長い間会いに来れなくて申し訳なかった、と詫びを入れた。
「…ありがとう。
あの人も喜んでるわよ、きっと。
さ、長旅でお腹空いたでしょ?
田舎料理で申し訳ないけど食べて頂戴。」
「そういえば…ねぇ、庭にまだ「まるさん」祀ってあるの?」
「まぁ、覚えててくれたの?
ええ、お祀りしてあるわよ。」
「じゃあ、まるさんにも挨拶しなくちゃ!!」
俺は慌てて玄関で靴をつっかけると、庭へ走って行った。
背中で祖母が、くっくっと笑う声が聞こえる。
確か大きな桜の木の根元に…
「…あった…」
小さな祠の中に、注連縄が緩く巻かれたソフトボールくらいの大きさの苔むした石が、幼い日の記憶のまま…ころんと座っていた。
俺は、脛に泥が付くのも構わず石の前に跪くと、不躾にも中に昔と同じように手を入れて、まるさんをそっと撫でた。
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