いにしえの約束

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「まるさん、ご無沙汰しちゃってごめんね。 ずっとばあちゃんや村の人達を守っててくれてありがとう。」 何となく、石が光って笑ったような気がした。 『まるさん』…祖母達から聞いた話によると、それは大昔から祀られてある龍神様だという。 昔々、神様と人間とが気安く交流していた頃のこと。 行き倒れのようになっていた“まるさん”を介抱し助けたのは、うちのご先祖様と村人達だった。 うちはこの辺一帯をまとめていた大地主だったそうで、元々いらっしゃった土地神様の許しを得て、まるさんをうちに迎え入れたんだとか。 まだ経験も浅く力もなく野良神(のらがみ)のように流浪していたまるさんは、最初恐縮して出て行こうとしたらしいが、心優しい土地神(女神)様に説得される形でこの地に留まることになったらしい。 そしてそれから間もなく、土地神様が遠方の山神様の所へお嫁に行くことになり、まるさんがこの地を引き継いだ。 きっと土地神様は“これ幸い”と自分の代わりとしてこの土地を護るように、まるさんを引き留めたんだろう。 そういう事情だから、次第に過疎化が進み、人々が外に流れ土地が寂れていく様を見ても、まるさんは村人を責めることもなく、ずっと変わらずにここを護ってくれてるんだって。 大きな災害や事件事故がないのも、まるさんのお陰だとみんな思っている。 俺は絶対に『まるさんは生きている』と思っている。 何度目かの帰省の折、金色の鱗を煌めかせ、青空を悠々と飛ぶ大きな龍を見たんだ。 不思議と全然怖くなかった。 それどころか胸がキュンキュンしたのを今でも覚えている。 …その時、頭の中に響いてきた聞き覚えのある声は、ずっとずっとずっと前に、何か約束をしたような記憶が…でも、俺はどうしてもそれを思い出せなかった。 吃驚して両親や祖達母を呼びに行ったけど、戻ってきた時にはもうまるさんはいなかった。 「慎也、お前は龍神様に愛される子なんだね。」 祖父は少しだけ悲しそうに笑いながらそう言った。
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