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「さぁ、早く首の所に乗って!
俺の角をハンドルのように持って!
絶対に振り落としたりはしないから、安心して。」
鼻先でぐいぐいと脇腹を押しやられ急かされて、まるさんの首に抱きつく格好になってしまった。
ひんやりとしているけど暖かい、硬いのに柔らかい…思っていたのと違う相反する感触は…
俺、これ、知ってる!
幾度も数え切れないほどその首に触れて縋り付いて、空を自由に駆け巡った…2人ともご機嫌で笑い合っていたあれは…いつのこと!?
「慎也、どうした?
一緒に空を駆けるのが怖いのか?」
まるさんの首に抱きついたまま動かない俺に、まるさんが心配そうに声を掛けてきた。
俺は慌ててまるさんの首にまたがると、努めて明るい声を出した。
「ううん、大丈夫!
最初は低飛行でよろしく!」
角をぐっ、と握りしめ、両方の内腿に少し力を入れた。
「承知した!…では、行くぞ!」
とん、とまるさんが大地を蹴ると、瞬く間に身体が浮き上がった。
「うひゃあっ」
俺は角を掴んだまま、思わずまるさんの首に腹這いになった。
「はははっ!慎也、もうびびってるのか!?
山を遥か下に見下ろす程に高く駆け巡っていたというのに。
…まぁ、ご所望通りにしてやる。
しっかりつかまっていろよ!」
不思議なことに、低空飛行とはいえ風を切って飛んでいるというのに、何かベールにでも包まれているように全く息苦しくない。
俺はゆっくりと伏せていた顔を上げた。
「うわぁ……」
足下の水面は微かに漣を起こし、鱗の金色を反射してキラキラと煌めいていた。
俺は気持ちが高揚してワクワクしていたが、何かを思い出しそうになっていた。
「まるさん!もう少し高く飛んでも…大丈夫!」
ふっ、と口元を緩ませたまるさんは、嬉しそうに呟いた。
「では…いつものコースを飛ぶとしようか。」
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