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くん、っと身体が少し後ろに傾いた。
エレベーターに乗っているような浮遊感が纏わりつく。
それらが少し治まりホッと大きく息を吐いた。
軽い衝撃にちょっとビビりながらもまるさんの角をしっかりと握り直してから覗き込んで、眼下に広がる飛行写真のような風景に感動していた。
足下を流れる雲の切れ端。
ミニチュアみたいな街並みと連なる山々。
自分がドローンにでもなった気分だ。
(…うわっ…すごっ…俺、俺やっぱりこの景色を数え切れない程見てる…見覚えがある!)
「どうだ?中々気持ちのいいもんだろ。」
まるさんの誇らしげな声がした。
「うん!すっごく気持ちいい!
まるさんはいつもこんな景色を見てるんだね。
…でも俺…」
「ん?どうした?怖いのか?少し高度を下げるか?」
俺はふるふると首を振った。
「違う……俺、何度もこの景色を見てる。
覚えてる!!
まるさんの角の感触も触れる身体も…俺、覚えてるんだ!
どうして?…ひょっとして俺…まるさんと一緒に飛んでた?
まるさん、やっぱり俺、大切なこと…忘れてる、よね?」
まるさんは黙っていた。
俺も黙って返事を待っている。
まるさんは向きを変えると元の方向に戻り始めた。そして2人とも無言のまま暫く飛び続け、ゆっくりと高度を下げていった。
ふわふわと身体が浮きそうな感じは…俺によく馴染んだ感覚だったのを思い出せそうで、思い出せなかった。
降り立ったそこは、先程俺が目覚めた時にいた高原だった。
「まるさん、ありがとう。楽しかったよ。」
俺はお礼を言ってから、ゆっくりとまるさんの角から手を外し頭を撫でた。そして体温が同じになった首元からそっと離れた。
まるさんは俺が離れたのを確認すると、見る間に人間の姿になった。
「まるさん、俺」
「少し歩こうか。」
そっと右手を取られ、花が咲き乱れる大地を歩き出した。
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