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時を紡ぐ
昔のように。
まるさんと俺と、勿忘と山吹と。
笑い声があちこちで聞こえ、俺の大切なひと達の優しい気配に包まれている。
時には口喧嘩や意見の食い違いはあるけれど、思っていることを包み隠さず全て吐き出して、後には決して残さない。
「慎也さまー!
これ、召し上がって下さいっ!」
ある日、山吹が俺のためにと、大きなグミの実を採ってきてくれた。
意気揚々と差し出された楕円形の大きくて真っ赤な実は、瑞々しくつやつやと輝いていた。
一緒に着いてきた勿忘も得意気だ。
「これ、ばあちゃん家の庭に植えてあったやつと同じだ!」
幼い頃、木から千切っては食べていたんだ。
偶に酸っぱいのに当たると急いで吐き出して、水を飲んでたっけ…
懐かしくて嬉しくて、泣きそうになった。
「山吹、ありがとう!
でも、これ何処で見つけたんだ?この近くで見たことないけど……この辺に生えてるわけ、ないよね?」
ふと山吹の手を見ると、あちこちに引っ掻き傷があった。
「山吹…まさか、これを採るために危ないことしたんじゃないのか?」
慌てて、ぴゅっと手を引っ込めた山吹は、首をふるふると横に振るとバツが悪そうに笑った。
俺は、背中に隠された山吹の手を取ると、そっと包み込んで言った。
「山吹。
俺のために何かしてくれるのは凄く嬉しい。
でも、そのために山吹が怪我をしたり傷付いたりするのは、俺は嫌だよ。
もう、危ないことはしない、って約束して。」
「…はい、慎也様…ごめんなさい…」
「謝らないで。
守ってくれればそれでいいから。
それより、ちゃんと手当てしたのか?」
「…はい。まる様からいただいたお薬がありますから…」
「怒ってるんじゃないよ。心配して言ってるんだ。
勿忘もそうだよ。絶対に危ないことはしないで。いいね?
でも、これホントに嬉しい。ありがとう。」
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