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「ちょっと、あの」
「わしはもう動かんぞ! わしを齧ったんだからな! 運の尽きと思って連れて行くがいい!」
「えぇ?」
「ほら、どこかに行くのだろう? わしはこれでも諸国を広く回っておったのだ。旅をするなら何か役に立つこともあるだろう」
「別に旅をしているわけでは」
「なんだ。そうなのか? ここは深い森ではないのか? 隠された財宝や未知なる遺跡、古代文明!」
村でも冒険だとか夢みたいなことを言う友達はいたけれど、僕はそんなものより美味しいものがいいんだ。美味しいものがたべたいんだ。でも未知なる遺跡とかには未知なる食べ物もあったりするのかな。
でも遺跡でしょ? もうすっかり腐るか風化してるよね。美味しいものなんてありそうもない。
「あの、そういうのは別に。それに歩くとすぐ道に出ますし」
「なんじゃつまらんのう。お主も男子であろうが。では何に興味があるのだ。おなごか」
「えぇ? おなごとか、そんな、その。その僕が好きなのは美味しいものです」
「何? そんなものでよいのか? まあ、各地の名産物産はある程度ならわかるが」
「本当に……⁉ カプト様。是非ご教示ください!」
「だがこの魔女の領域は知らぬ」
なんだ、駄目じゃないか。
でも僕の就職先はワールド・トラベル出版だから旅に出たりもする……よね?
僕の未来は美味しいものに満ちている、に違いない。
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