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ふん、と差し出されるゴワゴワと毛が絡まった手にステータスカードを置く。その視線が耐性の欄までいくと、とたんに眉を下げたずいぶん憐れみの混じった視線で眺められた。
この人、犬獣人かな。灰色のテリア系の容姿。
「おめぇ、どっかの実験施設かなんかで育ったのか?」
「実験? ああ、耐性はその、昔から悪食で」
「何? 同情して損したじゃねえか」
そんな酷い。
でも目は僕のステータスカードを注視し続けている。これなら大抵のところにはいけるか、とかブツブツいっていてちょっと怖い。大抵のところってどこだろう。
声からして男だよね? 獣人の性別は見た目でよくわからない。視線がカードの詳細に至るにつれ、怪訝な顔をされたりフンと鼻を鳴らされたりしている。
僕のステータス、何か変かな、いや、耐性は変だろうけどさ。
「お前、ここが何の仕事をするところか知っているか」
「出版っていうのは新聞を作るんですよね?」
「まあ新聞だけじゃねぇけどよ、いろんな情報を集めて読者に届けるんだ」
「ジョウホウ?」
「そっからか」
犬獣人は腕を組んで貧乏ゆすりをしながら、なんて説明したものかな、とひとりごちた。貧乏ゆすりの衝撃で紙の山がバサリと崩れた。
「お前、旅に興味あるか」
「旅! もちろんです!」
「世界にあふれる未知の遺跡や古代文明! それを探求するロマン!」
「すいません、それはわかりません」
「を……おう、そうか……」
遺跡とか冒険は別に興味はないんだけど。カプト様も似たようなことを言っていたけどそういうものなのかな。でも世界中の美味しいものを食べるのが僕の夢なわけだし、旅はしたいです。
改めて犬獣人は僕を上から下までまじまじと眺める。
「悪食、悪食……。じゃあ言い直そう。会社の金で世界中の珍品特産品を飲み食い」
「やります! 是非やらせてください!」
「その合間にうちの取材を、ちょっと聞け」
勢い込んだ僕は近くの紙の山を倒して怒られたけど、僕はこうしてWT 出版第五分室に就職することになった。
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