Prologue 僕の大切なお仕事

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 よしっと。  ペンを置いて一息つく。  うん、この地方のご飯は本当に美味しいんだ。特に魔女様がお好きな柑橘類製品は国を上げて開発しているから本当に舌が蕩けるほどおいしいものばかり。  うーんでも、でもね、なんていうか。  あーもう、ここはオフレコだから言っちゃう!  全部が! 全部の食べ物にオレンジの味が混ざってるんだ!  いや、美味しいんだけどさ、本当に美味しいんだけど。でも蜜柑以外の味が、蜜柑が混ざらない味が食べたいなって、はぁ。  そんな風に心を叫ばせていると、ドスンと何かが落下する音がした。  みるとカプト様が歩きキノコを追いかけてベッドから落ちていた。鬱陶しかったんだろう。このあたりのキノコは本当に元気だなぁ。部屋を見回すと1,2本の歩きキノコがうろついている。きっとこの宿の壁の木が苗床に適しているんだろう。ため息を付く。寝ているあいだ中カサコソとうるさかった。  取材のための食事代金は会社からお店に直接支払われるけれど、その他は微々たるお給料で回さないといけない。だから僕が泊まるのは少しだけ難ありのお宿が多い。でもまあ、世界中を回って色んなものを食べられるんだから文句は言っていらんない。  ここでの取材はこれで終わり。 「カプト様、いきますよ」 「う? む? もう終わったのか?」 「はい。これを郵便局に出したら終わりです。次の国に向かいます」 「そうか、了解した」  カプト様はぴょんぴょん飛んで小さくなって、僕のカバンのアクセサリーに擬態する。ぷらんぷらんするカプト様は少しかわいい。 「どうした、いかぬのか」 「行きます行きます」 「返事は1回」 「はぁい」  伸ばさない、とぶつくさ言ってるけれども僕は気にせず鞄を持って扉を開けた。精算を終えて宿を出て丘に登る。オレンジの芳しい風が髪を吹き流して帽子を持っていこうとする。なんだかんだいってこの香り自体は結構気に入っていた、せめて食べ物には加減してもらえれば。香りが濃縮されちゃうんだよね、食べ物は……。 「ようやくこの香りとはおサラバか。そう思うと名残惜しい」 「あれ? カプト様、やっぱりこの香り苦手だったんですか?」 「そ、そんなことないわい。わしに苦手なものなど」 「次は港町です。たくさんお魚が食べられますね」 「お、いいな、それ。まさか魚にオレンジの香りが……」 「そんなことないですよ、多分、多分ね」
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